2016年4月16日 (第3163回)

生涯発達心理学からみるキャリアと分岐点 ―生殖の困難にみまわれた女性の語りから―

立命館大学 総合心理学部 准教授 安田 裕子

 子どもを産み育てることは、成人期の発達課題のひとつのありかたとしてとても大事なことでしょう。しかし実際には、子どもに恵まれない夫婦がいます。

 赤ちゃんが授かりにくいことに気づいた時、治療に通うという選択肢があります。生殖補助医療技術の発展はめざましく、生殖補助医療は自然妊娠が困難な夫婦の希望の拠り所として重要な役割を果たしています。一方で、治療に通うことはさまざまな負担や制約を伴うことでもあります。治療を続けたところで妊娠・出産に至らない夫婦がいるのもまた事実です。

 赤ちゃんを待ち望みながらもどうしても授からないなかで、治療をやめて、夫婦単位で家族を築く選択をする人がいます。また、非血縁の子どもをもつ選択をする夫婦もいます。そうした選択の分岐点には、いかに生きていくのかを突き詰めて考えるという、生き方や価値観の捉え直しがみられたりもします。

 生殖のテーマは、いのちの誕生の神秘、夫婦関係や家族形成、次世代継承の課題など、人生の歩み(キャリア)を考えるうえで興味深いものです。こうしたことについて、経験の語り(ナラティヴ)に接近しながら考えていきたいと思います。