2016年11月26日 (第3187回)

江戸時代の武士が描いた絵画ーその画題と中国士大夫への憧憬ー

公益財団法人 黒川古文化研究所 研究員 杉本 欣久

 「不易」と「流行」、いずれを追求するかは人それぞれであるが、もし「いかに生くべきか」ということに関心があるなら、絵画を通じてそのヒントを得ることは可能である。  江戸時代の絵画には「南画」もしくは「文人画」として扱われる一群があり、それを描いた画家を「南画家」、「文人画家」と称した。その呼称の正否はさておき、なかには「武士」の身分でありながら、「画」を描いた人物も少なくなく、特に彼らは多くの至言を残している。それは高い理想・理念を抱いたゆえに直面する日々の矛盾や葛藤を通じ、人生における苦難のなかで辿り着いたひとつの結論であった。「武士」と「絵画」、その関係には相容れない矛盾が存在するかのように見えるが、「なぜ「武士」であるにもかかわらず、「画」を描いたのか?」という極めて自然に生じる疑問について、この講座でお話ししたい。  江戸時代の絵画資料に深く沈潜し、彼らと一緒に暮らすがごとく、その価値観を共有すれば、その生き方が現代人の我々にも何らかの示唆を与えることだろう。