2006年4月15日 (第2769回)

壊れた脳、生存する知―高次脳機能障害を生きる医師として―

医師 山田 規畝子

 昨今は『脳ブーム』である。20年前には医者でも医学生でもない者が日常生活の中で脳の話をすることなど、滅多にありはしなかったのではないだろうか?ところが最近では、テレビでも本でも、脳の話題持ちきりと言えるほどだ。

 脳は、奇形児など、よほどの特殊例を除いて誰もが持っている当たり前の臓器である。そうでありながら、これまで脳のことはあまり知られていなかったが、最近では、脳を持っていることの意味に、一般人でも多くの人が気付き始めている。それは、脳の中に「自分」があるということである。

 人間はDNAの中に自分を認証するものがあることを知ったが、もっと日常的に、自分で観察したり感じたりしやすい『自分』のありかに気付いたのである。自分の存在を実感できるのは人間にとって安心なことである。だから、人々は脳を知りたくなり始めているのだと、私は感じている。

 3度の脳出血に見舞われ、後遺症を抱えて生活するようになってから私自身、脳の存在とその働きを、強く実感するようになった。その体験、私に見えている世界をお話しすることで、自分の脳について知るお手伝いができれば、幸いである。そして、それは私と同病の方々への理解を深めるための最良の第一歩となることを、信じている。