2017年3月4日 (第3195回)

東北の復興住宅・まちづくりの現在 ~復興の現場を通して見えてきた「住民主体の地域再生」と専門家の役割~

有限会社 都市建築設計集団 /UAPP・代表 手島 浩之

 東日本大震災直後、この社会はもう一度つくり直さなければならないほど壊れてしまったと誰もが感じました。震災直後には、このような混乱期には首長の専制的な決断こそが重要であると学識経験者をはじめ誰もが口にしていました。民主的な手続きはタテマエではあるが、実現する筈のない理想であり、手続きだけが煩雑になり実用的でない。迅速な復興のためには英雄的な英断こそが必要だと。社会が理想としタテマエとする原理原則を、その専門性で社会を支える役割を担った実務者や専門家、有識者が信じていないことに愕然としました。論理的に考えると、掲げた原理が上手く実現できないのであれば、原理が間違っているか、運用が間違っているか、どちらかの筈です。私は、この社会が原理原則と掲げていることに、一番オーソドックスなやり方で取り組みたいと考えました。非常時であるからこそ、どこから歩き出すかは、この社会の理念に対しての態度表明である筈です。

 日本建築家協会宮城地域会で石巻市の支援をすることになり、最初に、誰がどの地域に入るかを相談した際に、何の迷いもなく「北上町」に手を上げました。その理由は今になっても良く分かりませんが、思い返せばそれがすべての始まりでした。北上町の復興の歩みは、私たちの社会が理想として掲げていることへの素直で素朴な表明であることを願っています。