2005年5月7日 (第2726回)

女性作家たちの昭和―プロレタリア文学再検討

文学部教授 中川 成美

 元号による時代認識が薄れていく中、昭和という時代をどのように考えていくかは文学のみならず、政治や経済、歴史、文化にとっても大きな問題であろう。「昭和」という呼称は、単なる年号の区分ではなく、そこに流れた壮大な時間の記憶を湛えている。

 今回の土曜講座のシリーズでは文学そのものの中に穿たれた、今ではたどることが困難になっている記憶を掘り起こして、この混沌とした現在と交差させてみたいと思っている。昭和初年代、林芙美子、宮本百合子、平林たい子、中本たか子、佐多稲子ら、社会主義思想に共鳴し、新しい文学活動に参加した、いわゆるプロレタリア文学女性作家を採り上げ、いったい彼女らは何を目指し、何を改革しようと欲望したのかを考えることによって、昭和の出発点に巻き起こった女性主体の変革への意思を探ってみたい。それはまさしく、いまや見えなくなってしまった「昭和」という時代の、多くの失われた意識や声を代理しているのだ。

 文学は記憶を盛り込んだ巨大な器となって、私たちの〈今〉を撃ち続けている。