2006年5月13日 (第2771回)

日韓差異の認識からの出発―中西伊之助を手がかりに

政策科学部助教授 勝村 誠

 中西伊之助は1887年(明治20)に京都府久世郡槇島村(現在の宇治市槇島)で生まれました。1910年頃に朝鮮半島に渡り『平壌日日新聞』記者となりますが、藤田組を批判する記事を書いたことが信用毀損罪に問われ、懲役4ヶ月の実刑を受けて平壌監獄に投獄された経験を持っています。

 日本に戻ってからは作家としての創作活動と労働・農民運動の実践活動をひとつに結びつけて生き、日本で初めて本格的に朝鮮半島の植民地支配を批判的に描いた長編小説『赭土に芽ぐむもの』をはじめ、植民地支配、農村問題、労働問題、裁判制度、女性の人生などをテーマに数多くの作品を残しました。

 中西は終生あらゆる抑圧や支配からの解放を願って生きた人ですが、民族の間に横たわる溝をつねに意識し、さまざまな被抑圧者=被支配者を単純に同一視することはありませんでした。おそらくそのあたりに彼の朝鮮認識の独自性があるのだと思います。

 講座では、そのような中西の考え方を手がかりにしながら、言語・文化・歴史の違いを相互に尊敬・尊重しあうことの大切さを考えてみたいと思います。