2017年9月2日 (第3214回)

白川文字学の今後の展望

立命館大学衣笠総合研究機構 招聘研究教員・大阪府立大学人間社会システム科学研究科 教授 大形 徹

 7月に上海の華東師範大学を訪れ、Journal of Chinese Writing Systems の編輯会議に参加した。この大学には老舗の学術雑誌『中国文字研究』がある。それを英訳してイギリスで出版するという。国の予算もある。日本4、韓国4、ベトナム2、イギリス、イタリアから1名ずつと中国の学者、あわせて40数名が集まった。出版はSAGE(シンガポール)である。

 かつて毛沢東は「象形文字から音標文字」への切り替えを提唱した。簡体字を作り、漢字を簡素化し、その後、音標文字にする。 その一環としてアルファベットのピンインを作成した。你是中国人吗? は、Nǐ shì Zhōngguó rén ma ?と書く。中国語の発音記号だが、文の最初や固有名詞は大文字から始め、疑問文の文末には「?」がつく。漢字をなくしてもピンインで英語のような文になる。実際、中国ではパソコン入力はピンインなので毛沢東の考えは半ば実現している。

 ところが現在、中国は象形文字から始まる表意文字「漢字」の面白さをアルファベットの国、イギリスに英語で発信しようとしている。白川静氏の『字統』なども英語に訳せば、興味をもって迎えられるのではないかと思う。