2017年9月30日 (第3217回)

古代中国における文字の誕生・継承・伝播の過程を跡づける ──白川文字学第二世代としての展開

白川静記念東洋文字文化研究所 客員協力研究員 高島 敏夫

 殷代に生まれた文字(甲骨文)が、殷を滅ぼした西周王朝に伝えられ(金文)、さらに他の部族へと伝わって行った過程を跡づける話しです。これまでこの問題を正面切って論じた人を知りません。このような考察が可能になったのは白川先生が築かれた体系的な文字学があったからこそです。私は若い頃から先生の『甲骨金文学論叢』と『金文通釈』とをかなり綿密に読んできましたが、これらの論考が暗示しているところの、文字誕生から継承へ、さらには伝播へと向かうその過程についても、少しずつはっきりと見えるようになってきました。そしてこの問題が、文字とは何か、文字というものをどう考えるかという問題と密接に関係していたことに思い至りました。

 拙著『甲骨文の誕生 原論』(人文書院)は「文字とは何か」という問題を前面に出した漢字誕生論ですが、ここで提示したのは、いわゆる口語とは別の文語的な特別な口頭言語を記すために作られたのが文字であるという文字観です。こうした文字観は、実は白川先生の研究、とりわけ『説文新義』をお書きになった時点で、かなり近い考えがうかがえるような気がしていたのですが、終にそこに踏み込まれないままになりました。今回のテーマはこの文字観に触れながら進めていきます。

◆白川静没後十年記念企画のご紹介◆
連続公開講座(全3回) 『甲骨文(卜辞)を通して殷代社会に分け入る 』
(※土曜講座とは別の公開講座となります)