2018年1月27日 (第3227回)

伝統と近代の狭間で:近代上海都市文化のなかの地方劇

立命館大学文学部 准教授 三須 祐介

 中国の伝統演劇といえば、みなさんは京劇を思い浮かべるでしょうか。あるいは、歌舞伎俳優の坂東玉三郎も共演したことのある崑曲をイメージされるでしょうか。中国語で「戯曲xiqu」と言われるこれらの「伝統演劇」には、確かに「伝統」と呼ぶにふさわしく、二百年余(京劇)、五百年余(崑曲)と長い歴史を経たものがあります。

 一方で、近代になって演劇としての体裁を整えていった地方劇も少なからず存在し、これらもやはり「戯曲」のカテゴリーに入ります。その存在は、「戯曲」を「伝統演劇」と単純に翻訳してしまうことの危うさを我々に投げかけてもきます。

 とりわけ上海という地域に根ざした「滬劇」(滬は上海の謂)の歴史は、20世紀以降のモダン都市上海の歩みと共にありました。上海風にアレンジされた京劇が人気を博した20世紀前半において、新興の小さな劇種が生き残っていくことは容易なことではありませんでした。近代という時代のなかで、映画や話劇(いわゆる新劇)などの刺激も受けて成長した滬劇は、新中国建国以降も、政治との関わりのなかでたくましく生き延びていきました。

 本講座では、「滬劇」を通して、中国の大衆文化における伝統と近代の意味を考えていきたいと思います。