2006年5月27日 (第2773回)

日韓ナショナリズムの行方―東アジアの時代を見据えて

経営学部助教授 鄭 雅英

 今年はトリノオリンピック、国別対抗野球WBCに続いて6月にはドイツでサッカー・ワールドカップが予定されている。日本と韓国はいずれの大会にも代表が出場し、トリノの韓国メダルラッシュとWBCの日本チーム優勝で、両国のメディアは連日盛り上がった。6月のサッカーW杯では、これを上回る熱狂に日韓とも席巻されるのだろう。

 スポーツが人々にかき立てる国家や民族に対する幻想的帰属意識、それが社会にもたらす影響は一様ではない。

 2002年日韓共催サッカーW杯でソウル市内を埋め尽くしたサポーター「赤い悪魔」は、同年末の大統領選挙でリベラルを標榜する盧武鉉を支持した層との近似性が指摘されている。

 かたや日本の2002年W杯は、「反中」「嫌韓」の「プチナショナリズム」が伸張し首相の靖国参拝を心情的に支えていくきっかけだったように見える。

 ナショナリズムは、一方で在日朝鮮人たる私のように日本と朝鮮半島の双方に生の拠点を望む人間に向けいまだに鋭い匕首のような問いを突きつける。「お前はどちらの立場にいるのか」と。恐らく21世紀のあるべき姿は、こうした問いそのものを乗り越えた先にある。憂鬱なスポーツの観戦の季節がまたやってくる。