2018年6月2日 (第3242回)

映画に描かれた戦時期朝鮮社会 -「望楼の決死隊」(1943年・今井正監督)を読む-

立命館大学文学部 客員教授 水野 直樹

 アジア・太平洋戦争さなかの1943年、東宝が製作・公開した「望楼の決死隊」は、「満洲国」との国境にある朝鮮の小さな村を舞台にして、国境を警備する警察官を描いた映画です。日本人・朝鮮人の巡査、朝鮮の村人が力を合わせて、国境の向こうから襲撃してくる「匪賊」を撃退するというストーリーで、戦時期のプロパガンダ映画ということができます。監督今井正は戦後日本映画の巨匠として知られており、戦後の大スター原節子も出演しています。

 この映画は当初、日朝の合作映画として企画されたため、多くの朝鮮人俳優が出演し、有名な映画監督崔寅奎が共同企画者・助監督を務めました。そのため、「望楼の決死隊」はプロパガンダ映画でありながら、朝鮮映画人の思いがこめられた作品として解釈することもできます。植民地支配の下で築かれていた民族的ヒエラルキー(日本人-朝鮮人-中国人)は、映画に色濃く表われていますが、一方でそのようなヒエラルキーをくつがえす要素も読み取れます。

 多様な解釈が可能なこの映画を、戦時期朝鮮社会の断面を表わす映像として読み解きたいと思います。