2018年10月13日 (第3253回)

加藤周一と1934年生まれ世代 ―樋口陽一、海老坂武、大江健三郎、西川長夫

中央大学 名誉教授 三浦 信孝

 加藤周一(1919—2008)は戦後日本を代表する知識人のひとりです。しかし専門をもたないことを専門とした加藤は、東大法学部教授だった丸山眞男(1914−1995)と違って直接の教え子がいないため、その知的遺産を受け継ぐ者が散らばっています。私がひそかに恐れるのは、戦後、京大人文研の共同研究を牽引し多くの弟子を育てた桑原武夫(1904−1988)でも、没後30年の現在ほとんど読まれなくなったのと同じ運命を加藤がたどることです。  この講座では、加藤周一の人と著作に親しみ、加藤との対話を通して知的形成をとげた四人の作家・知識人をとりあげ、加藤周一の知的遺産が後につづく世代によってどう引き継がれてきたかを検証したいと思います。その四人とは、いずれも1934年生まれでフランスに学んだ樋口陽一、海老坂武、西川長夫、そして大江健三郎です。大江さんだけは1935年1月生まれですが、東大仏文で海老坂武さんと同学年です。  

 彼らのあとを継いで21世紀に加藤周一の知的遺産を継承し発展させることができるのかが、問われます。