2019年6月8日 (第3280回)

日本列島の先史時代における人口変動と火山噴火

立命館大学総立命館グローバル・イノベーション研究機構 助教 中村 大

 先史時代の大規模噴火が各地の文明・文化を滅ぼしたという「環境決定説」は広く知られている。日本列島についても、鬼界アカホヤ噴火(約7300年前)が南九州の縄文文化を絶滅に追いやったとする解説をしばしば聞く。また、東北北部の十和田火山噴火(約6000年前)が環境と社会に大きな打撃を与え、その復興として青森県三内丸山遺跡に代表される円筒土器文化の発展が語られることもある。こうした語りが将来の巨大噴火で日本は壊滅するという予測につながっている。     

 しかし、この環境決定説は、災害は人間社会のありようが生み出す社会現象であることを見落としている。噴火が発生したときの文明システムや社会・経済の趨勢により、被害の内容や程度はかなり異なるのである。本講演では、社会の動向を示す人口変動を指標として、日本列島の縄文時代から古代を中心に噴火と社会の関係に関するいくつかの事例を解説する。最新の考古学研究が、現代の日常生活が歴史上前例のない脆弱性の高い文明システムに依存していることを気づかせてくれるだろう。確かに、巨大噴火は自然の猛威だが、それを壊滅的災害に至らしめかねない私たちの文明システムこそがリスクなのである。