2020年2月29日 (第3304回)

「風神」の襲来と平安京の人びと  -京(みやこ)に残る台風の記録から-

立命館大学文学部 特任教授 片平 博文

 古記録を紐解くと、平安時代や鎌倉時代時代にも数多くの台風が、京都やその周辺に接近・襲来していたことがわかります。台風は古くから、ただ強風による被害ばかりではなく、大量の雨を伴う場合が多いことから、水害や土砂災害など複合的な被害を引き起こす恐ろしい災害の要因として位置づけられていました。しかし、当然のことながら歴史時代の人びとは、台風発生のメカニズムや基本的な構造に関して、何の知識もありませんでした。また、刻々と変化・移動する台風の情報を把握することもなく、衛星から送られてくる精密な雲画像を見ることもなかったのです。それにもかかわらず、現代の私たちが驚くほど的確に風が引き起こす現象を捉えていました。本講座では、9~14世紀のおよそ600年という長い時間軸を対象として、平安京・京都に猛威を振るった「大風」の実態について解説したいと思います。過去の災害の素顔を把握することは、将来私たちを襲うかもしれない未来の災害を防ぐことにつながるのです。