2022年1月15日(第3348回)
遺産観光(ヘリテージ・ツーリズム)におけるリアリティ――コロナ禍の経験を通して問い直す
甲南女子大学人間科学部 准教授 木村 至聖
リモートワークやオンライン授業にみられるように、コロナ禍は、期せずして社会のDX化を加速させました。そのなかで、私たちはデジタル技術の新たな可能性を知るとともに、必ずしもすべての体験がそれで「置き換え」られるわけではないことも痛感しました。言うなれば、ヴァーチャルな体験がリアルな体験の価値をあらためて浮き上がらせてくれたのです。しかしその一方でまた、ヴァーチャルな体験もまた、リアルに対する「偽物」と単純に切り捨てることはできません。そもそもヴァーチャルな体験は私たちの生活にすでに深く入り込んでおり、両者を切り分けることはきわめて難しいのが現状だからです。 本講座では、こうしたコロナ禍の経験を踏まえて、リアル(本物)対ヴァーチャル(本物らしい偽物)という表面的な二項対立を越えて、私たちが「本物」と感じる体験とは一体何なのかということを考えます。その一つの手がかりとして、文化遺産(ヘリテージ)を対象とする遺産観光(ヘリテージ・ツーリズム)の事例をとりあげ、「コロナ以後」のヘリテージ体験というものを展望してみたいと思います。