2022年2月26日(第3352回)

言葉が現実を作る―平林たい子「殴る」

武蔵大学人文学部 准教授 戸塚 学

 小説を読む時、ストーリー、つまり物語の内容を読むことだけが、〈読む〉ということではありません。言葉の意味するところだけでなく、言葉の形にも注目して読んでみると、時に新たな発見があります。この講座では、プロレタリア文学から出発した女性作家平林たい子の「殴る」という一風変わった題名を持つ小説に焦点を当てます。実はこの小説は、プロレタリア文学でありながら、対立陣営の新感覚派の横光利一から高く評価された作品です。この高評価には、実は小説の言葉の形、つまり文体が深く関わっています。形に注目した時、小説の言葉というものが、いかにして小説世界の現実を作り出すかが見えてくるのです。