2023年3月25日(第3376回)

丸山眞男とその母、加藤周一とその母

立命館大学加藤周一現代思想研究センター 研究員 半田侑子
関西国際大学 講師 劉争

<半田侑子>

 本講演は筆者が研究代表をつとめ、サントリー文化財団「学問の未来を拓く」研究助成を受ける共同研究「近代日本知識人の「母」――丸山眞男・加藤周一・鶴見俊輔の母たち」を進める過程での中間報告として位置づけ、丸山の母、セイに絞って論じることにする。
 近代日本において知識人とされる存在はそのほとんどが男性だった。近代日本知識人研究は圧倒的に男性を対象とし、論じる側もまた男性が中心である。その間、家庭を仕事場としてきた多くの女性たちの姿は、男性に比べるとその足跡を追うことが非常に困難である。しかし家庭で懸命に働いた女性たちは、日本社会に影響を与えなかったと言えるだろうか。このような問題意識のもと女性研究者による国際共同研究として構想した。本共同研究は、近代日本知識人を生み育てた母に光をあて、近代知識人たちのテクストを通して、彼らの母、ひいては近代日本の母たちの姿を再発見したい。本講演では丸山眞男の母、セイを取り上げる。個人としてのセイ自身を知ることが重要であると考え、丸山が語る母像からセイの姿を浮き彫りにする。

<劉争>

 加藤周一と母織子の関係は加藤の自伝小説『羊の歌』の「母」に多く描かれるが、『羊の歌』において「母」のほうが父よりも子供周一に愛される理由は単に「母」であり「女性的」だからだろうか。母織子に重ねて描かれる『羊の歌』の「母」は子供周一の尊敬に値する人間の像そのものであることに注目したい。さらに「母」織子像は単に「母」の像に留まらず、『羊の歌』においては「女性的」なものに表現されていること、そして、そのような「女性的」なものは『羊の歌』の「母」から『続 羊の歌』の「恋人」へと発展していく。これまでにない視点から新たな解読を試みる。