2024年09⽉21⽇(第3411回)

⽇本外交にとっての聖地︓ 侍とクリスチャン⼥性が⾒た ワシントンDC

⽴命館⼤学⽂学部 教授 ⼩川 真和⼦

 日本の総理大臣は戦後、ほぼ全員と言ってよいほどワシントンDCを訪問する。アメリカ大統領と面会するためである。また大統領府であるホワイトハウスからさほど遠くない場所にどっしりと構える日本大使館の主、すなわち駐米大使になることは、日本の外交官にとってキャリアの到達目標であるという。日本外交にとって「聖地」であるワシントンDCは、これまで日米関係における重要な局面の舞台となってきた。そこで本日の講演では、江戸幕府が1860(万延元)年に派遣した遣米使節団の一員として同地を訪問した肥後(熊本県)藩士、木村鉄太と、同じく肥後の生まれで1906(明治四十)年と1921(大正十)年に同地を訪問したキリスト教徒の女性、矢島楫の旅に焦点をあてる。二人ともホワイトハウスを訪問し、大統領に謁見する機会を持った。鎖国下の日本で育った木村の目にワシントンDCはどのように映ったのか。また日本が帝国として成長した時期に二度、ホワイトハウスを訪れる機会を持った矢嶋は、アメリカ大統領と何を話したのか。外国訪問が今よりはるかに困難であった時代に、太平洋を越えてワシントンDCを訪れた二人の肥後の男女の目線に立って考察する。