2024年12⽉21⽇

人間科学の枠をひろげる

土曜講座公開講演会

立命館土曜講座 公開講演会 +2024年度 立命館大学人間科学研究所年次総会
場所:立命館大学衣笠キャンパス 以学館 IG102ホール、多目的ホール1・2
企画:⽴命館⼤学人間科学研究所

<全体テーマ> 人間科学の枠をひろげる

児童虐待、不登校、ヤングケアラーといった子どもや若者に関わる社会課題が深刻化する一方で、人口減少に伴う対人援助職の人材不足が問題となっています。本イベントでは、多様性に開く現代において、AI技術やアートの活用を通じて、人間科学の枠を広げ、新たな対人援助の可能性を探ることを目指します。

10:00 立命館大学人間科学研究所年次総会開式
10:15~12:30 土曜講座
第1部:AI活用で描く対人援助職の未来(以学館 IG102+ Zoom)
司会:石田賀奈子(立命館大学産業社会学部 教授/立命館大学人間科学研究所運営委員)

 児童虐待の問題、学校でのいじめや不登校の問題、ヤングケアラーと呼ばれる子ども・若者の存在など、子ども若者をめぐる社会課題は山積しています。しかし、それに対応する社会福祉専門職は労働力人口減少社会においてすでに相当確保困難な状況にあり、それは今後一層進行していくことが予想されます。人と人とのかかわりを基盤としてきた対人援助の現場でも、DX 推進でその課題を解決しようとする動きが注目されています。

 対人援助専門職は、社会福祉士養成のカリキュラムの中で、ソーシャルワークの価値・知識・技術を座学と現場での実習で獲得することを目指した教育の中で育成されてきました。養成をめぐる課題と今後の展望はどのようなものでしょうか。そして、AI による業務改善は対人援助における業務負担の軽減や意思決定支援にどのように貢献することができるでしょうか。対人援助における AI 活用の可能性とその課題について子ども家庭福祉領域で専門職養成に携わってきた3名の研究者を招き、議論していきたいと考えています。

登壇者:奥村賢一(福岡県立大学人間社会学部社会福祉学科 准教授)
テーマ:スクールソーシャルワーカー養成の実際と課題

講演要旨:
 2008年度に文部科学省が「スクールソーシャルワーカー活用事業」を開始した翌年、福岡県立大学は「スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程(以下、教育課程)」を開設しました。これまで103名が修了し、32名がスクールソーシャルワーカーとして活躍しています。福岡県立大学の特徴は、新卒のスクールソーシャルワーカーを数多く輩出している点にあります。規定の80時間を大幅に超える200時間以上の実習を行い、実践力の高いスクールソーシャルワーカー養成を目指してきました。国内にモデルが存在しないなか、何度も試行錯誤を繰り返し、教育と福祉の垣根を越えて行う現場実習は挑戦の連続でした。教育委員会や学校(教職員)のニーズは複雑多様化しており、即戦力としての人材が求められます。一方、新卒で働くには不安定な身分でありながら、高度な専門性が求められる非常に過酷な仕事です。実習生の潜在能力を引き出すプロデューサーとして、常にアンテナを張り巡らしながら、教育課程の実習プログラムを創造してきた15年の軌跡と今後の展望についてお伝えします。

登壇者:野尻紀恵(日本福祉大学社会福祉学部 教授)
テーマ:こども家庭ソーシャルワーカーの養成の課題と展望

講演要旨:
 こども家庭ソーシャルワーカーは、実務者の専門性の向上を目的に設立された認定資格です。こども家庭福祉の様々な場所・立ち位置で活用・実践できるためのソーシャルワークを専門的に学ぶことで、こども家庭福祉の支援の専門性の担保を目指す、と示されています。しかし、専門性の向上のみで、こどもや家庭は救われるのでしょうか。

 どのような支援があって、どのような事があったから、今の「わたし」の人生があるのか、「わたし」の今を生きることができているのか、「わたし」の夢が開けたのか。意思と支援の関係性が問われています。

 「こども家庭ソーシャルワーカーの養成」において重要な課題は、子どもを取り巻く問題の中で、不登校、いじめ、虐待といった現象への対応ばかりに捉われることなく、その背景にある貧困等の現状や、親の自立の問題や、家族へのエンパワーメントについて、子ども自身の「わたし」の視点でともに考え、学ぶことだと考えています。

登壇者:和田一郎(獨協大学国際教養学部 教授)
テーマ:人口減社会における対人援助職業務の課題と解決方法

講演要旨:
 現在、わが国は急激な少子化が進み、まもなく全国の大学の定員以下の出生数となります。そして大学だけでなく学部や学術領域間でも人材獲得のための競争は激化していきます。さらに、税金や社会保険料の負担増加は今後も続き、学んだ人ほど海外志向が強くなります。それは卒業後に民間と公務員という選択だけでなく、海外進出という概念も入り、さらに良い人材の争奪戦となっていくため、条件(賃金等)は向上していくのが一般的です。このような社会の中で、対人援助職に人が集まるのでしょうか?援助職の価値化を行うための活動をしているのでしょうか?福祉人材の育成のグッドプラクティスとAI活用による解決の可能性を提示し、対人援助職価値化のためのソーシャルアクションをしたいと思います。

12:00~14:00 ポスターセッション(以学館多目的ホール1・2)
14:00~17:00 土曜講座
第2部:イメージの世界の広げ方講座
〜 イラストレーター わたせせいぞう氏をゲストに迎えて 〜(以学館 IG102ホール *会場開催のみ)
司会:増田梨花(立命館大学人間科学研究科 教授/立命館大学人間科学研究所運営委員)
登壇者:わたせせいぞう(漫画家・イラストレーター)
登壇者:黒田善孝(株式会社アップルファーム代表取締役社長)

この数年で多様性という言葉をよく耳にするようになりました。例えば障がいのある人や性的マイノリティなど、社会を取り巻く多様性における課題への取り組みが推進されています。わたせ氏が書き下ろした「ハートカクテル」の新作「ハートカクテル カラフル」 がNHK Eテレで放送されました。わたせ氏が「ハートカクテルカラフル」で描いているのは、現代の多様性にとんだ愛をテーマにした物語です。氏の作品には、どんな属性や特性の人も、誰もが自分らしく生きられる社会を築いていこうとする願いが込められています。本講座は以下の5部構成に分けて行います。

① わたせ氏のイラスト制作における裏話や、大切にしていること、自身のイメージの伸ばし方についての講義
② 音楽を媒介にしたイメージ力の伸ばし方:生ギター演奏を視聴しそこからイメージするTPOのストーリーを参加者が考え、発表
③ イラストを媒介にしたイメージ力の伸ばし方:イラストからのイメージするTPOのストーリーを参加者が考えて、発表
④ 対談:イメージの力が日常生活にどのように活かされていくのかについて(わたせ氏×黒田氏×増田)
⑤ まとめ:イメージを生活の中でどのように広げていくかについて

17:00 立命館大学人間科学研究所年次総会閉式