2005年5月28日 (第2728回)

忘れられた移住地文学/南米の日本語文学

大学院先端総合学術研究科教授 西 成彦

 2008年は、日本人のブラジル移民が東シナ海、南シナ海、そしてインド洋、南大西洋を渡って100年目という記念の年にあたります。京都ではかなりめずらしいケースだったかもしれませんが、労働力を吸収する都市圏を近くに持たない内地の地方農村からは人口の流出が続き、なかには日本での兵役を拒んだ男たちもまた少なからず含まれていました。

 しかし、そうしたひとびとの生きざまについて、日本語文学はどれだけ肉薄できたでしょうか。

 石川達三の『蒼亡民』(1935)から垣根涼介の『ワイルドスワン』(2003)までブラジル日系移民に取材した作品は少なからず書き残されていますが、はたして皆さんはどれほど移民たちの生活についてご存知でしょう。

 今回の土曜講座では、現地で書かれた日本語文学や、沖縄作家、大城立裕の書いた「ノロエステ鉄道」という作品などを紹介しながら、昭和史の裏面に迫りたいと思います。