対談企画

SPECIAL

「人類の生活圏を拡大」「SFの世界を実現」
「月が新しい実験の場に」

宇宙地球フロンティア
研究科教員が
宇宙研究の魅力を語り合う

BACKGROUND

かつては宇宙に憧れる子ども、人類の役に立ちたいと願う学生だった、
宇宙地球フロンティア研究科に着任予定の先生方。
今は宇宙探査・開発の第一線で活躍する5人の先生に、宇宙との出会いやこれまでの道のり、
宇宙研究の魅力などについて、自由に語ってもらいました。

#1 FRONTIER

“The Eagle has Landed”との
メッセージが聞こえた瞬間、
もう完全に魅了されました

Theme

先生方が宇宙に興味を持ったきっかけと、
そこからの道のりを教えてください

中須賀 真一
中須賀

アポロ11号の月面着陸が1969年、8歳の時でした。7月20日、日本時間で21日の朝5時、父と着陸の瞬間をテレビで見ていました。だんだん月面が近づき、最後は逆噴射して煙が舞い上がり、ガッと画面が揺れる、これが着陸の瞬間でした。“The Eagle has Landed”というメッセージがNASA回線で聞こえた瞬間、もう完全に魅了されましたね。その後、帰還時の大気圏突入では非常に狭い角度範囲で入らなければ生還できないことを知り、怖くて寝られなかったことも憶えています。

大学に入学した年に「ボイジャー」の木星最接近があって、ますます宇宙への思いがつのり、航空宇宙学科で宇宙の研究を始めました。でも実は、当時の宇宙研究はあまり面白くなかったんですね。AIを人工衛星に搭載したいという話をNASなどの宇宙企業に持ち込んでも、そんなの危ないし実証されていないと門前払いだったからです。ところがその後、スタンフォード大学の小さな研究室で小型人工衛星が作られているのを見て、JAXAなどの立派な施設でないと人工衛星は作れないとの思い込みが覆されたことから、1999年に研究室で超小型人工衛星を作り始め、2003年に世界初の1㎏人工衛星の打ち上げに成功。誰もが使いやすく、宇宙ビジネスに展開できる超小型人工衛星の第一歩を作ったという自負を持っています。

佐伯 和人
佐伯

1967年生まれの私もまさに同じ、アポロ11号です。当時、子供向けの雑誌や漫画にはアポロ計画のことが詳しく書かれていて、「大人になる頃には月に基地ができ、木星や土星にも人が行くようになっている」と信じていました。

小学生の時のヒーローはSFテレビドラマ『スター・トレック (当時は『宇宙大作戦』) 』のスポック博士。宇宙船に乗ってさまざまな惑星に行き、そこで起きている問題を解決していく姿に強く憧れたことが私のベースにあります。そんな憧れと、当時騒がれた『ノストラダムスの大予言』やSF好きで読んだ『日本沈没』など世界が破滅に向かうイメージが、自分の中で科学とつながり、災害や人類の危機に活躍できる人になりたいと思うようになっていました。

その後、無人探査機「ボイジャー」など、外惑星の探査計画が進み、初めて見る木星や土星の映像に心奪われました。その頃から惑星科学を意識するようになり、天文を志して大学に入学。でもそこで、惑星探査は天文学者だけでなく地質学や鉱物学の研究者の仕事でもあると知ったのです。南極地域観測隊が持ち帰った大量の隕石を研究する環境が大学にあったことや、伊豆大島の噴火もあって地学への興味に火がつき、隕石の研究、マグマの研究をするようになりました。その縁で小惑星探査機「はやぶさ」のチームに入ったのですが、はやぶさが目指す小惑星は冷たくてマグマが発生しないことが出発前にわかったため、当時立ち上げられたばかりの、月探査機「かぐや」のチームに移りました。以来、ずっと月探査に関わりながら、地球や宇宙のマグマや火山の活動の研究をしています。

小林 泰三
小林

私の専攻は土木工学、中でも地盤工学という「土」を扱う分野です。もともとは国際協力への興味から大学で土木を専攻したので、特に宇宙に興味はありませんでした。大学院に進学すると、研究室の教授が、「テラメカニクス」という分野の専門家でした。建設機械や農業機械が地面を走行することで地盤が沈下したり、掘削によって地形が変わったりするような、機械と土との相互作用を扱う研究分野です。当初、私は別のテーマで研究していたのですが、ある日、月面基地建設を構想する大手建設会社の方が研究室に来られました。月面を覆う「レゴリス」と呼ばれる土の力学特性に関する相談で、それがわからなければ月の地面を掘る機械の設計ができないと言うのです。それを聞いた時、ビビっときました。宇宙の分野なんてまったく考えたことがなったのに、直感的に面白そうだと感じ、飛び込んでみようと思ったのです。こうして、レゴリスの研究を始めてもう25年以上になります。

長岡 央
長岡

私はドラえもんが大好きなんです。映画版の『ドラえもん』では、ドラえもんやのび太がいろいろな場所へ行きます。海底や過去、宇宙にも行くのですが、一番好きなのは、のび太が自分で地球を作る話です。いろいろな元素を混ぜて、最終的に地球を作るのですが、それを見たときに「地球ってどうやってできたんだろう」と強い興味を持ちました。その思いは、ふつふつと心の中に持ち続けていたように思います。

私が子ども時代を過ごしたのは、愛媛県の田舎でした。周りは山だらけ。新生代から2000万年ぐらい前の古い地層もたくさんあり、化石を掘って遊んだりしていたので、石がすごく好きでした。私の研究の最終的な目標は、月の特定の場所、私が取ってきてほしい場所から採取してもらったサンプルを分析し、月がどのようにしてできたのか、さらには地球がなぜできたのかを明らかにすることです。子ども時代の経験から、「石を調べることで地球やさまざまな天体がどのようにできたのかがわかるなんて面白い!」と感じたことが、今の私へつながっています。

仲内 悠祐
仲内

中学生の時、小柴昌俊氏がニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞されました。私の地元である岐阜県のカミオカンデという観測施設で実験が行われたということもあり、当時、岐阜県では、複数の教育イベントが開催され、地元の理系中高生が、小柴氏をはじめ世界の第一線の研究者からさまざまな講義を受ける機会に恵まれました。火薬エンジンを利用したモデルロケットを打ち上げたり、光通信について学んだりするなど、最先端の講義でした。私はもともとロボティクスに興味があったのですが、「宇宙っていいな」と思うようになりました。

高校生の時には、油井亀美也さんらがJAXA宇宙飛行士として認定された宇宙飛行士選抜試験が10年ぶりに開催されるなど、進路を強く意識する多感な時期に宇宙を考える多くの機会を得たことで、宇宙飛行士になりたい、月に行きたいという明確なイメージを持つようになりました。高校3年生の時に新聞取材を受け「将来は宇宙開発に関わりたい」と宣言した時が、私が具体的に将来の進路の方向性を固めたタイミングだったかもしれません。

大学では天文学を志して物理を専攻し、その後、小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」の表面物質搭載カプセルを地球に届けられたことに感銘を受け、「はやぶさ2」に関わることのできる大学院に進学して、実際のミッションにも参加しました。そのつながりで、小型月着陸実証機「SLIM」のミッションにも参加。私が開発したマルチバンド分光カメラ(MBC)を搭載した「SLIM」は2024年に月面へ着陸しました。自分が開発したカメラが月に行くのは、私にとっては自分自身の「目」を月に送り込むようなものです。今も「自分の分身を送り込む」、そんな意識で開発に取り組んでいます。

※月面模擬フィールド〈日本冶金工業(株)〉
※ローバーは国交省・宇宙建設革新プロジェクトによる開発品です

#2 FRONTIER

人類が地球から宇宙に出るという
生命進化史の一大イベントに
プレイヤーとして関われる

Theme

宇宙に関わる研究にどのような可能性や
面白さを感じておられますか?

佐伯 和人
佐伯

人類が地球を飛び出して宇宙に進出するのは、かつて生物が海から陸に上がったのと同じような生命進化史の一大イベントなのではないかと思います。人類の叡智によってそのイベントが起こされようとしているということ、しかも、自分がプレイヤーとして関われるということに、ゾクゾクするような面白さを感じています。

理学の研究者にとって最も大きな価値は、天動説から地動説のような、パラダイムの転換を起こすことです。例えば、産業革命が起こった時に運河がつぎつぎと掘られ、その結果、各地の地層が比較されて地質学が生まれ、人間の誕生以前にも生物の長い歴史があったということがわかり、当時のキリスト教的天地創造の世界観が壊れて、進化論が生まれました。地下フロンティアを開発することによって人類の世界観が大きく変革したのです。

私は宇宙開発にも同じことを期待しています。宇宙を開発し、人が住むようになった時、今の常識を打ち破るような世界観や価値観の大きな変革が起こるのではないでしょうか。

仲内 悠祐
仲内

月探査は今まさに「月に着陸する」フェーズに入ってきています。SF の世界で描かれていたことが、現実のものになってきており、その現場にいるということが、とても面白いと思います。このようなフェーズチェンジは、これから先、何度も起こるでしょう。そして、それを実現していくのは、宇宙開発に取り組もうとしている私たちです。人類の活動領域を広げ、世界を変えていけるのが、この分野の大きな魅力だと感じています。

また、実際に月に降り立つことができる今だからこそ、過去のデータを見直そうとする動きもあります。古いデータも、今の視点で見れば新しい発見につながるものがあるかもしれないからです。前に進み続けることは大切ですが、同時に、先人たちが残してきた偉業をしっかりと吸収しながら次へつなげることも大切だと思います。こうした形で研究を進められるところも、この分野の面白さだと思います。

長岡 央
長岡

今後、月という場所をある程度恒常的に利用できるようになれば、科学のフロンティアも大きく広がり、月を舞台にした科学が次々と生まれるのではないでしょうか。例えば、素粒子物理や天文学では、地球で観測するよりも、宇宙空間に出て測定する方が、精度が高くなる場合があります。そうした研究にとって、月は新しい実験の場になり得ます。月を活用することで科学的なフロンティアが広がり、新しい技術の変換も生まれるということが、今後の宇宙開発の面白さだと思います。

月はこれまで、惑星科学の研究者を中心に研究されてきました。しかしこれからは、物理学者や素粒子物理の研究者、さらには生物学や医学分野の研究者も、月を「科学のフロンティアを広げる基地」として利用することになるでしょう。私は、そのことをとても面白いと感じます。これまで私たちが進めてきた月の研究が、幅広い科学に活かされていくと考えると、とてもワクワクします。

小林 泰三
小林

宇宙研究の面白さは、人類の生存圏や活動領域の拡大に直接貢献できるところにあると思います。土木という分野は、もともと社会インフラを整備し、人々の暮らしを支えることを使命とする分野です。常に「社会のために、人のために」という思いがベースにあります。私たちが普段何気なく利用している道路、鉄道、河川、上下水道、さらにまちづくりや防災など、社会のさまざまな場面で土木技術者が人々の暮らしを支えています。社会を支えているという実感こそが、この仕事の大きなやりがいです。

その役割は宇宙でも同じです。将来、人間が月や火星で生活するようになれば、まず必要になるのは基本的な社会インフラの整備でしょう。私の専門分野の延長線上に、人類の新たな生存圏を切り拓く仕事がある。そのことに大きな希望と喜びを感じています。次の世代のために、人類の最前線で新しい社会基盤を築いていきたい。それが私にとっての研究のやりがいであり、面白さだと思っています。

中須賀 真一
中須賀

人工衛星づくりの面白さは、自分の手を離れた宇宙空間できちんと働き続けるシステムをどう作るかという点にあります。宇宙では、何か不具合が起きても、決して修理に行くことはできません。だから、さまざまな事態を想像しながら、何が起きても仕事を続けられる人工衛星システムを考えていく。そのプロセスこそが面白く、人工衛星づくりの醍醐味だと思います。難しいけれど、難しいからこそ面白いんです。

今、私たちは、複数の超小型人工衛星を宇宙空間に配置し、協調して観測を行う「フォーメーションフライング」の技術開発に取り組んでいます。1機では大したことができなくても、広く配置し連携させることによって、無限の可能が生まれるのです。これまでは高価で大きな人工衛星でしかできないと思われていたことが、安価で小さな人工衛星の連携でも実現できる。それを、技術の追求によって証明していくのは、本当に面白い挑戦です。小さな人工衛星だからこそできる新しいコンセプトを生み出し、ノーベル賞に近づくような研究をしたい。それが私の思いです。

#3 FRONTIER

来てほしいのは学びの幅を
広げたいと思う人
自分の手を動かしながら
挑戦したいと思う人

Theme

そんな先生方が教育にあたられる宇宙地球フロンティア研究科へ、
どのような学生に入学してほしいと思いますか?
入学後、どのように成長してほしいと思いますか?

小林 泰三
小林

私が来てほしいと思うのは、新しいことに挑戦し、新しい価値を生み出していこうとする学生です。建設業界では、大手のゼネコンは自前で建設機械を持っているわけではなく、資材や機械、人材を手配しながら大規模なプロジェクトをまとめ上げていきます。技術力を土台にしながら、さまざまな要素を組み合わせて難しい工事を期限どおりに完成させる、いわばプロジェクトマネジメントのプロフェッショナル集団です。その様子を見ていると、こうしたマネジメントの力は、宇宙分野でも、他のどんな分野で活かせるものだと感じます。一方で、次の時代に向けて新しいチャレンジをしたいが、それができる人材がいないという声もよく聞きます。これから求められるのは、既存の枠にとどまるのではなく、新しい分野に挑戦し、新しい価値をつくり出していく人材です。宇宙に限らず、さまざまな領域でそうした役割を担える人を育てたいので、挑戦する意欲を持った学生に来てほしいと思っています。

中須賀 真一
中須賀

宇宙分野で活躍するのに大切な要素は3つあると思います。

1つは、システムインテグレーション。宇宙では、個々の科学や技術を深く学ぶことはもちろん大切ですが、それらを1つのシステムとしてまとめ上げる力が欠かせません。さらに言えば、技術だけでなく人も含めて統合し、プロジェクトを動かせるようになりたい人に入学してほしいと思います。

2つ目は、挑戦する姿勢。宇宙の分野は「まだできないこと」に挑んでいくものです。誰もやったことがない、これまで難しいと思われてきたことに挑戦する、その過程で失敗しても、めげずに挑戦を続けられる人に来てほしいと思います。

3つ目は、持久力。宇宙のプロジェクトはとても長い時間がかかります。実験やものづくりを積み重ねながら、うまくいかないことがあっても粘り強く取り組み続ける力があるといいですね。

長岡 央
長岡

研究の中でぜひ身につけてほしいと思っているのは、謙虚さと頑固さです。自分の専門について周囲からの意見を真摯に受け止め、謙虚に向き合う姿勢はとても大切です。一方で、ここだけは譲れないというところは、しっかり主張する頑固さも必要だと思います。その意味で大事になるのは、きちんと議論ができることです。議論では意見がぶつかることもあるので、面倒だと感じることもあるかもしれません。でも、より良いものをつくろうとすれば、必ず意見がぶつかる場面が出てきます。そうした時に、忍耐力、持久力、思考力をもって議論を続けられることが大切だと思います。謙虚さと頑固さの両方を持ちながら議論を重ね、これから出てくる未知の課題にも粘り強く向き合える人材を、この研究科で育てていきたいと考えています。

仲内 悠祐
仲内

私も、人としっかり議論ができることは大切だと思います。強いモチベーションを持つテーマをとことん突き詰めながら、さまざまな分野に興味を広げ、知識を吸収していく。そして、議論を通じて自分の考えを磨いていく。長岡先生と同じく、謙虚も必要だと思います。

同時に、自分を信じ続ける力も大切です。挑戦の過程で「あなたには無理だ」と言われるような場面もあるでしょう。でも、最後に信じるべきは自分です。やりたいこと、重要だと思うことを信じて取り組みを続けられる人を育てたいと思います。

宇宙地球フロンティア研究科は扱う分野の幅が広いので「一体何をやっているんだろう?」と思う人もいるかもしれません。だからこそ、いろいろなことに興味を持ち、学びの幅を広げたいと思う人、そして自分の手を動かしながら挑戦したいと思う人に来てもらえたら嬉しいですね。

佐伯 和人
佐伯

私の大好きな募集広告があります。英国人のアーネスト・シャクルトンが、南極探検隊を募集した時のものです。「求む男子。至難の旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と称賛を得る。」20世紀初頭のもので、現代の感覚では問題のある広告かもしれません。しかし私が言いたいのは、宇宙が好きでこの分野に来る人も多いと思いますが、どんなに好きなことでも、研究の世界にはさまざまなハードルがあり、つらいと感じる場面もあるということです。「好きだから」というだけで選ぶのではなく、たとえつらくても乗り越えるほどやりがいがあると信じて選んでほしい。私はそういう骨のある人を求めているし、そのやりがいは、この研究科でならきっと見つかります。今はまだ見つけられていなくても、必ず見つけるんだという気概のある人に来てほしいと思っています。