東日本大震災からの5年間を振り返る 立命館の復興支援「福島県編」 町民一人ひとりの想いにふれた、楢葉町での聞き取り活動。 東日本大震災からの5年間を振り返る 立命館の復興支援「福島県編」 町民一人ひとりの想いにふれた、楢葉町での聞き取り活動。

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故によって、全町避難指示が出されていた福島県楢葉町。昨年9月に避難指示が解除されましたが、町民約7400人のうち、帰町したのは440人。生活環境の整備の遅れや放射能への不安から町に戻るか迷っている人、新たな場所で暮らそうと決めた人、故郷に戻ろうと決意した人……町民の方々の抱える想いはさまざまです。

本学災害復興支援室では、2011年12月から東日本大震災の被災地域に学生を派遣するボランティアバス企画「後方支援スタッフ派遣プロジェクト」を継続的に実施しています。
第32便となる今回のプロジェクトは、避難指示解除を目前に控えた楢葉町を訪れ、さまざまな想いを抱え葛藤する町民のみなさんにインタビューをし、それを写真と400文字の原稿にまとめるという活動でした。ここでは、参加した稲垣尚弥さん(経済学部3回生)と宮西美沙さん(政策科学部1回生)、大学を休学して楢葉町の「一般社団法人ならはみらい」の臨時職員として深くまちづくりに関わる西崎芽衣さん(産業社会学部4回生 ※休学中)と災害復興支援室の山口洋典副室長に、活動について振り返っていただきました。町民一人ひとりの想いにふれることで起こった心の変化とは――。

参加メンバー

災害復興支援室
山口 洋典副室長
産業社会学部 4回生
西崎 芽衣さん
経済学部 3回生
稲垣 尚弥さん
政策科学部 1回生
宮西 美沙さん

このプロジェクトに参加した理由

山口副室長「震災5年」というと、区切りが良く何かリセットされるような印象がありますよね。本学災害復興支援室の楢葉町での活動は、5年目を迎えようとする昨年から始まりました。稲垣さんと宮西さんはなぜ楢葉町に行こうと思ったのですか?

稲垣実は当初、東北には興味はなかったんです。2回生の終わりに、一人旅行で何気なく訪れた宮城県の沿岸部でがれきが残っている光景を目の当たりにして、「自分に何かできることはないか」と思っているときに、このプロジェクトの募集を見つけました。まちづくりや地域活性化について学んでいたこともあって、「楢葉町のまちづくりに関わる活動」であるという点に惹かれました。当時は、楢葉町の現状について全く知らなくて。まだ、「被災地」というくくりでしか見ていませんでした。

宮西高校生のとき、山崎亮さんの『コミュニティデザイン 人がつながるしくみをつくる』という本を読んで、「人と人をつなげる」ことに関心を持つようになりました。このプロジェクトの募集要項を見て、「いったんバラバラになったつながりをもとに戻す」という目的が、この本の内容とクロスオーバーしていたので興味を持ちました。

聞き取り活動から見えてきたこと

楢葉町での聞き取り活動の様子

稲垣聞き取り活動を通して、いろんな方と出会いました。新たな楢葉町のまちづくりのためには若者が必要だと考え、「若者世代が楢葉町に戻ってくると決断できるように、楢葉町で商売を始める」という方や、「楢葉町はすべてが良い」と楢葉町へ愛を語り、愛するがゆえに事故当時のことを思い出したり、「楢葉町になかなか病院やスーパーなどが建設されないことなどへ不安や怒りの気持ちがある」と率直に語ってくださる方など、さまざまな方がいました。

宮西初対面の人と話すのが苦手だったんですが、対象者の方々が話しやすいように気づかってくださって、お話するのがとても楽しかったです。みなさん、震災当時のことや、楢葉町の好きな場所、これからしたいことなど、いろいろとお話ししてくださいました。

稲垣本当にたくさんのお話やあふれる想いを聞いたので、「たった400文字でどうやって伝えればいいのかな」と悩みました。まとめはしたものの、今もまだ消化しきれていない気がしています。「本当にこれでいいのか」「話を伺って、次は何ができるんだろう」と思って。その答えは、まだ出ていません。いろんな考え方や意見があり、「楢葉町の声」としてひとくくりにしてはいけないと強く感じました。

宮西楢葉町の方々の中には、いわき市に避難し、いわき市での便利な生活に慣れて、楢葉町が避難解除になっても「楢葉町に帰りたい」と思わない人もいることが印象的でした。いわき市と同等の便利さ、かつての楢葉町以上の水準を求めてしまうのだそうで、そのような理由は実際に行くまでは想像できませんでした。私は、こういったお話を聞かせてくださった方々の想いを友達にも伝えていきたいと思いました。

山口副室長今回のプロジェクトは、西崎さんに橋渡し役を依頼して実現しました。西崎さんは、なぜ楢葉町に?

西崎福島での活動に参加した先輩から、「津波で被災した地域と福島第一原子力発電所事故による被災地域の現状は全く違った」と聞きました。原子力発電所と自宅の距離で賠償に違いが出たりなどの理由が重なり、さまざまな点で考えや立場が多様になりました。一人ひとりの気持ちが複雑に絡み合う中で新たな暮らしに向けた整備が進められていたのです。それから、2013年に先輩たちと「そよ風届け隊」というボランティア団体をつくり、楢葉町に何度も行くようになりました。京都に帰ってからも文通したりしていたのですが、その文通相手の方が「楢葉町に戻るのではなくいわき市に住むことを決めた」と聞いて、ショックを受けました。いつかみんな楢葉町に戻ると思っていたんです。でも、どんなに楢葉町を思っていても、戻ることはできない人もいます。「もっと近くに行って、町民の方々の想いを知り、寄り添いたい」と思い、大学を休学して「一般社団法人ならはみらい」の臨時職員として、まちづくりに取り組むことを決めました。

山口副室長:今回のプロジェクトにはどんなことを期待されていましたか。

西崎楢葉町では、本音を語ることで考え方の違いが明らかになり、関係が悪くなってしまうのではないかという方もいらっしゃいました。震災を経験していない、また、これまで縁のなかった学生だからこそ話せることもあると思いました。ひと口に楢葉町民といっても、年齢、立場、環境によって想いはさまざま。その記録を残しておけるのではないかと期待していました。

山口副室長なるほど。稲垣さん、宮西さんらがまとめた「ならは、31人の“生”の物語」は、昨年9月5日に復興祈念式典の会場で展示されました。町民の方々の反応はいかがでしたか。

西崎食い入るようにじっくりと読んでいただくことができました。県内のシンポジウム展示したのですが、「メディアでは伝えられない福島の難しさが伝わる」と言われました。他大学の学生も、「次があるならぜひ一緒にやりたい」と言ってくれています。「『被災地の声』はひとくくりにはできない、一人ひとりいろんな意見を持っている」ということをわかってもらえたことは良かったです。しかし、記事にまとめることができなかった想いがまだたくさんあるということを知ってもらうということが課題だと思っています。

これからどうしていきたい?

宮西行く前は楢葉町のことは知りませんでした。でもこの活動を通して、「知っている人が住んでいる特別な町」になりました。楢葉町をまだ知らない友達と一緒に行って、緑の多い町並みや、人々の心のぬくもりに触れて欲しい。

西崎うれしい!私も楢葉町がすごく好きだから、町外の人たちに来てもらえると本当にうれしいし、楢葉町の魅力を見つけて、一緒に支援に関わってくれる仲間がほしいです。

稲垣楢葉町のことは、まだ全部知らないけれど、町民の方々の話を聞いて最も印象に残っているのは、全員「楢葉町のことが大好きである」ということです。町に帰る人や帰りたくても帰れない人がいる中で、それぞれが自分たちにできることを頑張っていることが素敵だなと思いました。一方で、楢葉町に病院などの公共施設が整っていないのに町に帰ることを促されることへの葛藤や、避難先で新たな家を購入し、子どもたちの生活環境を変化させたくないという親の想いがあることなど、そんなきれいごとだけじゃないんだということもお話いただきました。そういうことも知った上で、もっと楢葉町に関わりたいし、もっといろんな人に足を運んでほしいと感じています。また、エネルギーや原子力の問題も考えていかないといけないと思い、実際に関西電力にも見学に行ったりして、自分が社会とどう向き合っていくべきなのか考えるようになりました。

宮西今後も、定期的に私たち学生が訪問して町民の方々と一緒にワークショップをしたりして、まちづくりをしていけたらいいなと思います。私も、頻繁に楢葉町に行くことは難しいけれど、身近なことから何かできればと思い、最近防災サークルに入りました。学生にできることは限られているかもしれませんが、学生という立場にしかできないこともあると思うので、自分たちの役割を見つけていきたいです。

西崎ふたりには、ぜひその想いを身近な人に伝えてほしいです。また、今回の聞き取りで収まり切らなかったこと、ここに書かれていないような、もっと複雑な問題があることも知ってほしいです。私も臨時職員として働くのは3月いっぱいですが、これからも楢葉町に通い続けようと思います。

山口副室長今後、楢葉町に続いて南相馬などでも避難指示解除されると思いますが、こういうものを残すというのは、この町の歴史の1ページに立ち会っているということですね。町民の方々と避難指示解除の瞬間を一緒に過ごし、共有した思い出があれば、いつでもここに立ち戻れると思います。

立命館と福島県との関わり

2012年12月、福島県と学校法人立命館とで包括協定を締結。留学生対象の福島スタディーツアーの企画や、共催で風評払拭、風化防止のためのイベントを開催などに取り組む。
また、学生団体「そよ風届け隊」や文学部のサトウタツヤゼミ、立命館宇治高等学校などが、支援活動や調査活動などにも取り組む。