ゆりあげ港朝市の復興を通じた研究業績により、
産業社会学部・永野聡准教授が「科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞」を
受賞されました!
~永野聡ゼミの閖上地区における取り組みを紹介します!~

 2022年4月8日(金)、科学技術分野の文部科学大臣表彰の科学技術賞・理解増進部門において、産業社会学部・永野聡准教授らの研究グループが「ゆりあげ港朝市の復興を通じた東日本大震災に関する理解増進」の業績で共同受賞されました。本部門は、青少年をはじめ広く国民の科学技術に関する関心及び理解の増進等に寄与し、または地域において科学技術に関する知識の普及啓発等に寄与する活動をおこなった者を対象に授与されるものです。

 永野聡先生は、2018年4月に本学に着任以降、ゼミの学生と共に閖上地区の復興マネジメント研究を行ってきました。現在も定期的に閖上地区を訪れ、地区の周遊性の向上や国際交流に関するプロジェクトに取り組んでいます。これまで、地域住民の意識調査や、コロナ禍での商業施設(ゆりあげ港朝市等)のあり方の研究等、閖上地区において、ゼミで培った知識を様々な形で実践しています。
 このような取り組みの一つとして、ゆりあげ港朝市協同組合、株式会社かわまちてらす閖上、閖上水産加工業組合、名取市観光物産協会、株式会社ささ圭などと閖上復興感謝プロジェクト実行委員会を組織し、閖上ブランドの「北限のしらす」に、この地で培われてきた笹かまぼこ作りの技を合わせ「北限のしらす入り笹かまぼこ」を企画・製造しました。開発資金も学生が中心となってクラウドファンディングで調達しました。かまぼこに練りこむ具材からパッケージデザインまで、学生が中心となり地域の方々との話し合いを重ね、創りあげていきました。2021年3月、ゆりあげ港朝市内の交流施設メイプル館にて、実行委員会メンバーに加え、山田名取市長、カナダ大使館マット・フレーザー広報部長、カナダウッドショーンローラー日本代表を招待し、「閖上福興笹かまぼこ」のお披露目会兼販売会を実施し、大好評を得ました。現在でも株式会社ささ圭で販売されています。


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(ゆりあげ港朝市の櫻井理事長と打合せをする永野ゼミの皆さん。)


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(ゆりあげ港朝市で、はらこ飯の振る舞いの手伝いをする永野ゼミの皆さん。)


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(閖上地域で住民の聞き取り調査をする永野ゼミの皆さん。)


 東日本大震災が起こったとき、永野先生は早稲田大学大学院博士後期課程の学生でした。4月からは早稲田大学建築学科の助手に着任することになっていました。永野先生は、震災の3週間後には被災地に入り、泥掻き等のボランティア活動をはじめました。4月からは、早稲田大学建築学科の若手教員(助手・助教)らと被災した沿岸部を周り何か出来ないかと自治体やボランティアセンター等を訪ねました。しかしながら、震災後の復旧段階という極めて厳しい環境下であったこともあり、若手教員への風当たりは強く、門前払いも数多く経験したそうです。自分たちの無力さを感じている日々が続きました。その中でも、自分たちの専門性(建築計画、都市計画、まちづくり等)を活かした支援をしたいという一念で活動を継続しました。そして6月に名取市閖上地区とのご縁ができました。それは、先生たちの若手研究者グループが携わった住民主導で復興計画を作るワークショップにおける、ゆりあげ港朝市協同組合の櫻井広行理事長との出会いでした。櫻井理事長から「ゆりあげ港朝市を再建したい」という熱のこもったお話があり、共感を覚え、協力することになったそうです。「ゆりあげ港朝市」は30年以上にわたって地域住民のみならず地域外の人々からも親しまれていました。しかし震災の津波によって施設や設備のすべてが失われたのです。組合員も数名亡くなりました。
 再建に必要な資金をクラウドファンディングで集めたり、カナダ連邦政府などが主催する「カナダー東北復興プロジェクト」から朝市施設建設資金の提供を受けるなどして、震災から2年半後の2013年12月に、ついにゆりあげ港朝市の再開を実現しました。しかし施設ができたものの、その運営管理業務などに課題があり、先生は施設の運営管理を担う会社を立ち上げるとともに、人材の登用・育成などにも携わってこられました。
 資金調達や復興状況に合わせた段階的な整備、国際的な交流施設(メイプル館)の整備を通した場の提供、民間主導での早期の再建、これらを含めたソーシャルデザインが高く評価され、2017年度グッドデザイン賞の「グッドデザイン特別賞(復興デザイン)」「グッドデザインベスト100」、2021年度「日本建築学会賞(業績:復興復旧特別賞)を受賞されました。そして今回、朝市の集客と賑わい創出にあたって、専門的な見地から復興計画を策定し献身的に推進したことや、次世代を担う若者への震災復興の教育活動が高い評価を受け、2022年度の「科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞」を受賞されたのです。

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(ゆりあげ港朝市の交流施設であるメイプル館でのミーティング風景。朝5時の朝礼。)
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(復活したゆりあげ港朝市の様子。)

 永野先生は受賞のコメントで、「当初『何かしなければ!』と気持ちが先行していた震災復興の支援活動が、今では、30名近くの学部生を抱え、震災復興の新しい支援の形を模索する日々になっております。これかれも地域に寄り添い、より一層の精進を重ねてまいる所存です。」とおっしゃっています。
 東日本大震災から11年が経ち、街並みは復興されてきていますが、被災地では未だに多くの課題を抱えています。永野ゼミの閖上地区での活動は、「新しい支援の形を模索」しながら、今後も多様な側面から震災復興や地域活性化に取り組むことでしょう。
これからも地域に寄り添い、閖上地域の方々とまちづくりに取り組む永野ゼミの活動に大きな期待が膨らみます。 

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(ゆりあげ港朝市恒例のせり市。せり市は誰でも参加でき、商品の価格は100円単位です。コロナ禍でアバターを使った せり市体験も実施しています。)

<関連情報>
立命館大学Webサイト NEWS & TOPICS 産業社会学部・永野聡准教授が「令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞」を受賞