SPECIAL CONTENTS #2 岡本先生の思い出

岡本先生の思い出、先生の教育に対する思いが溢れるエピソードをうかがいました。

成瀬 猛

立命館大学客員教授
元JICAパレスチナ事務局長

私と岡本さんとの出会いは、岡本さんが小泉政権時代、イラク復興支援担当首相補佐官としてJICA本部を訪れ、その時の幹部会議に「中東を良く知っているJICA職員」として、陪席の機会を得た時から始まっている。それ以来12年間もの間、友人としてお付き合いさせて頂いた。

その間に、岡本さんからの直々の依頼で、立命館大学オナーズゼミ(通称岡本ゼミ)の学生に対して、岡本さんの選んだ生の教材『世界の第一線で活躍する国際人』の一人として、何回も学生達の前に立たせて頂いた。

特に印象に強く残っているエピソードは、岡本ゼミの12人の学生を引き連れて、私が6年間JICA事務所長として駐在した、イスラエルとパレスチナを訪問するという海外研修の引率を引き受けた時の事である。中東和平と云えば、最も難しい外交問題の現場であり、今でも紛争状態が継続している場所である。学生達の安全面を考えると、学生海外研修の適地として疑問視される方も多いと思うが、敢えて、その現場を学生達に体験させ、そこに私を引率者として指名した岡本さんの意図は、まさにリアリストである岡本流教育法の神髄であったと思っている。現地研修には岡本さん自身も何日か参加して頂いたが、その時に、岡本さんは「大学生達の多くは、国際貢献がしたいと思っているけど、抽象的な知識に留まっているケースが多いんだよね。今回の様なリアルな国際協力現場を体験することで、彼等は自分でも出来ることを具体的にイメージ出来るようになるんだよね。JICAには、多くの学生達に国際協力のリアルを体験させる機会を提供して貰いたいね」と忌憚のない言葉で語ってくれました。

岡本流教育法は、学生達に理論や通説で抽象的なイメージを作らせるのではなく、リアルを体験することによって、本物とは何かを自分の中で、自分の言葉で具体的なイメージを作り上げることを由とした、実践的教育でした。詰まる処、岡本行夫こそが学生にとっては、目指すべき自らの将来像であり、憧れだったに違いない。その証拠に、参加学生は全員が素晴らしい人材に育って、国際的に活躍している。

山中 司

生命科学部教授

「国際社会で活躍する人材育成プログラム」コーディネーターとして岡本先生と接点を持たせて頂いたことを大変光栄に思います。岡本先生は深い教養と並外れた英語力、そして人間的魅力をお持ちの先生でした。講義で次から次へと出てくる名著や格言、歴史的出来事や最新の知見など、正確にそれらを一つ一つお話になる姿は圧巻でした。未来ある学生たちはそんな岡本先生に大いに触発され、目標としたことと思います。学生はもとより、我々教員にとっても実に知的に興奮した、幸せな時間だったと痛感します。

また岡本先生は、学生の前では常に教育者であられました。自分の思想の軸を持つこと、自分の頭で考え自分の言葉を紡ぐこと、そして思いやり(compassion)を持って接すること・・・数え上げればきりがありませんが、これら一つ一つの言葉は、学生がこの先どんな分野に進もうとも指針となるものばかりです。さらに、若者を馬鹿にする大人が多い中、先生は学生を常に奮起させ、エールを送られていたことも印象的でした。日本社会に特徴的なincremental(漸進的、徐々に)ではいけない、小さくまとまるな、大きなところのリーダーを目指せ、という先生の言葉からは、厳しくも暖かい、若者の可能性を真摯に期待する姿がありました。

最後に、幸運にして私も、岡本先生のご自宅に、学生と共に招いて頂いた経験を複数回持っています。学生も、私自身も、岡本先生が常に国益を考えて奔走するだけでなく、豊かで深い趣味や関心を持ち、奥様を大切にされ、人生そのものを謳歌されている姿を目の当たりにできたことは貴重な経験でした。岡本先生は日本人に多い、仕事だけに人生を捧げる方ではありませんでした。またそうした私生活の豊かさが、驚くほど多様で幅広い人脈をお持ちになる所以だと理解できました。私自身も、自分の人生の目標とさせて頂く生き方です。

石原 直紀

国際関係学部教授

岡本行夫先生のコースのコーディネーターを数年間務めさせていただいた。岡本先生の授業は、公開される講演部分と受講生のみ参加できるゼミとの二部構成が常であった。特に、後半のゼミは、学部の枠を超えて参加している学生が様々なテーマで発表を行ったり、従前の講演内容について先生とディスカッションをしたりと、内容豊富で貴重な学びの機会であった。さらに先生の豊富な人脈を活かして招聘してくださったゲスト講師の方々との東京での特別セミナーや海外スタディーなど、学生が国際的な感覚と経験を養うためにはこの上ないぜいたくな内容であった。

先生の講演は、主に現代の日本を取り巻く国際環境や日本外交について、歴史的視点も交えながら、熱心且つ真剣に学生に語りかけるものであった。学生にとっては新鮮で驚きに満ちた内容であったようだ。熱心に先生の話に耳を傾け、積極的に質問をするなど熱気にあふれた学びの時間であった。

あるとき、一人の学生がやや漠然として現実離れした質問をしたことがあった。先生は、真剣な面持ちで、「そういう質問をされると、これまで自分の話したことの意味を考えてしまうな」と率直な感想を述べられた。決して、質問内容を批判したわけではなく、常に学生の素朴な疑問にも正面から向き合い、自分の話を学生に理解してもらいたいという真摯で誠実な思いから発せられた言葉であった。

また、末川記念会館での授業を終えて帰路に就く先生を学生たちがとり囲み、カシャ、カシャと写メの音が響くのも定番の光景となった。先生はというと、まんざらでもないといった表情で学生との交流のひと時を楽しんでおられた。

先生は、長いこと様々な形で日本外交の現場に身を置き、日本の現状と未来について常に青年のような志と情熱をもって考え続けてこられた。それを若い学生たちにも伝え、託したいという思いが、学生に語り続ける先生の情熱の源泉であったに違いない。先生の薫陶を受けた多くの卒業生が、社会のそれぞれの場で先生の思いを引き継いでいってくれることと確信している。