大学院

「文化動態学」でいう「文化」とは、人間の生におけるあらゆる行為や現象を指しています。時代や地域や社会を問わず、そこで流動し変化を遂げていく文化が抱える様々な問題について、これまでの学問の枠組みを超え、専門領域を横断する研究をしていく姿勢を涵養します。

そのため、本専修では、諸文化に対して学生が育んできた多様な問いを解くにあたって、既存の学問の枠組み内に研究課題を立てるのではなく、「どのような学問領域が、どのように役立つのか」という具合に問いの立て方を逆転させることで、各学生の具体的な研究課題に合わせた指導を進めています。

具体的なディシプリンとしては、比較文学、言語学、歴史学、社会思想史、美術史、美術批評、社会学、文化人類学といった多様な専門を有する研究者が、学生の課題に則して共同で指導にあたります。また、カバーする地理的範囲もヨーロッパ圏や南北アメリカから、日本や南アジアやオセアニア圏まで広く設定しており、他専修とも補完的な関係を取り結んでいます。

共同指導の場である「特別研究」とは別に、各教員が以下のようなテーマで演習を行っています。(指導教員にかかわらず、どの演習も受講可能です。また、年度によって演習テーマは変更されることがあります。)

メディアによる伝統の表象と宗教/政治

19世紀後半に生まれた多様なメディアと新たに可視化された「国民」という形象、またそれにより変容させられた各地域の宗教や文化、「伝統」の名の下にいくつかの選択された価値や規範の演出などに注目し、「記録」のもつ政治性をそれぞれの参加者の研究領域において探る。

聖書学の実装――文系研究者としての / Implementing Biblical Studies as Arts and Humanities Researchers in General

キリスト教の聖典たる書物と向き合うにあたって、「聖書学」には信仰を持つ持たないを越えた批判的なアプローチ、他方「実装」には真に深く専門的にというよりは周辺諸学の者が備えるべき基礎知識のニュアンス、をそれぞれ含意させている。本演習では、「読み切り」記事のような企画をいくつか用意しつつ、講読・講義・議論を行なう。

「軍事史」というテーマの広がりの可能性

軍事史という分野は会戦や戦例の研究にとどまらない。人類の歴史において軍事という領域がテクノロジー、身体性、動物との関わり、空間利用、様々な価値観、そしてまた音楽、絵画、文学、ファッションといった文化現象とつながりを持ってきたことについて学ぶ。

現代ドイツ美学

感性的認識と啓蒙の概念、美的判断と「崇高」の倫理などの近代美学における根本問題について、主要な思想家(バウムガルテン、レッシング、ヘルダー、カント、シラー、ニーチェ、アドルノ等)のテクストに触れて知識を得つつ、議論を行なう。

文化の受容(視聴者・読者・聴衆・鑑賞者・愛好家・ファン・ユーザーなど)

「受け手」研究の基礎を学ぶと同時に、それが「ジャンル」形成にどのように関わっているかを考察する。関連する学術論文を授業内で批判的に読む実践を積み、テーマの立て方・論述の仕方・理論を学ぶ。

言語・翻訳をめぐる論

マルクス『資本論』における「商品語」という問題系を手掛かりに、言語・翻訳をめぐる論を展開した、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン、ヴァルター・ベンヤミン、ジャック・デリダそれぞれの理論を批判的に考察しつつ、テクストの精読という学術研究の基本的作法を学ぶ。

日本・東洋美術への美術史学的アプローチ

日本・東洋の美術作品を対象として、作品のディスクリプションや様式論・図像学といった基礎的方法論を出発点としつつ、近年のニューアートヒストリーやビジュアルカルチャーといった動向にも視野を拡大させながら、美術史学の方法論の修得およびその実践のための場とする。