広島県にある原爆ドームは、原爆の恐ろしさや悲惨さを生々しく伝える場所として、戦後70年を経た現在も国内外から訪れる人が絶えません。こうした人類の「負の遺産」を訪ねる観光が「ダークツーリズム」と呼ばれ、注目を浴びています。これは、災害や戦争など死や苦しみと結びついた場所を旅し、(写真を撮るだけではなく)悲しみを経験した人々に思いを馳せ、悼み、祈る気持ちを抱いて初めて「ダークツーリズム」といえます。
しかし、悲しみを経験した人々に対する悼みや共感を生む「ダークツーリズム」は、一つ誤れば全く逆の結果を生み出すことにもなります。
一部の専門家の間では、東日本大震災の被災地を「ダークツーリズム」に基づいて観光地化しようという議論もあります。しかし、今なお深く悲しみ続けている人がいる場所を観光で見てまわるというのはとても残酷な行為であり、あまりに記憶が生々しい間は人々の苦しみに寄り添うことは安易ではありません。
「ダークツーリズム」が光を当てた新しい観光のあり方をどう生かしていくのか。今後も答えを探し続けていきます。