プロジェクトリーダー
生命科学部応用化学科 前田 大光 教授 (写真 中央)
グループリーダー

科学・技術の進展を導く革新的な新規有機物質の創製に挑む

合成化学を基盤として既存にない有機物質を創製し
新たな電子・光機能を発現する革新的材料を開発する

医薬品・香料などの身近にある物質から、液晶や半導体などの電子・情報材料まで、有機材料は社会・産業のあらゆる領域で活用されていますが、近年とりわけ電子・光機能性材料の可能性に対する期待が高まっています。有機物質は原子・分子レベルから設計・合成することが可能であり、その配置を制御しやすいことに加え、無機材料と比べて原料が比較的安価であるなどの利点があります。また現在機能性材料の原料として用いられている有機資源の大部分は石油や石炭をもとに作られており、限られた化石資源や生命資源を有効活用する意味でも、より効率的に合成できる有機材料の開発が期待されています。何より地球環境におけるあらゆる現象は原子・分子の適切な配置が基盤となっており、その制御が実現できれば、人類が直面する多くの課題を本質的に解決するようなイノベーションをもたらすことも可能になるはずです。

そうした使命感のもと、本研究プロジェクトでは、合成化学を基盤としてこれまでにない有機物質を創製することによって、電子・光機能性をはじめ多様な物性を発現する機能性材料を開発することをめざしています。物質創製において多種多様な手法を徹底的に検討し、原子レベルでの適材配置による物質の精密な設計・合成、さらには分子レベルでの適材配置による集合体や高次構造の形成を通して、機能性材料として最適化することを目標に据えています。

「有機化学」を共通項に多様な専門性を持つグループが
ダイナミックに融合・連携しながら研究を推進

本研究プロジェクトには「有機化学」を共通項とし、物理有機化学、生物有機化学、有機合成化学という専門領域の異なる3グループが参画し、互いの技術や知見を活かしあうことで、既存研究では得られない成果を見出そうとしています。

まず前田グループは、有機合成によるπ電子系イオンペアを基盤として電子機能を有するさまざまなマテリアルの創製に挑んでいます。前田はこれまでπ電子系(π共役系)を構成する分子の中でもイオン種との相互作用(会合)能を有するピロール環に着目し、π電子系分子の合成に取り組んできました。π電子系イオンの中でも負電荷を持つπ電子系アニオンは反応性が高いために合成するのが難しく、その分子集合化の制御は世界的にもチャレンジングなテーマです。

前田はアニオンとの会合能を持つπ電子系の設計・合成を実現し、それを疑似的なπ電子系アニオンとして利用することで対カチオンと交互に積層させた電荷積層型集合体の形成に成功し、さらに同一イオン種が並列に積層した電荷種分離配置型集合体の形成も可能にしています。さらにこれらの集合体構造を有する超分子ゲルや液晶への展開方法も見出しています。本グループではこうした成果をもとに、土肥グループがノウハウとして持つ新規のπ電子系骨格連結法も取り入れ、さまざまなπ電子系分子の合成・配置を試み、新たな物性を有する物質を創製することをめざします。

民秋グループでは、さまざまな有機合成手法を使って会合性クロロフィルを合成し、この会合性を利用した超分子ナノ機能性材料の創製に取り組んでいます。分子の自己集積化(会合)によって形成されるナノ構造体は次世代の材料科学のブレークスルーとなるとして大きな期待が寄せられています。

民秋が研究対象とするクロロフィル(葉緑素)は植物の光合成で光を吸収・伝達するアンテナの役割を担っている色素分子です。民秋は光合成の光捕集機能やエネルギー伝達のメカニズムを解明し、その特性を活用して人工光合成システムの構築をめざす研究において世界をリードしています。これまでにクロロフィル金属錯体を用いて数多くのJ型クロロフィル会合体を系統的にかつ簡便に得る方法を開発してきました。本グループでは、緑色嫌気性光合成細菌の持つクロロフィルをモデルとしてこれまでにない会合性クロロフィルを人工的に合成しようとしています。さらに合成クロロフィルの自己集積(会合)能を利用して会合度や大きさ、ナノ構造を制御することで、新しい物性を有する超分子自己会合体を創製します。これらの会合性クロロフィルを新たな機能を持った超分子材料の開発につなげるとともに、まだ誰も達成していない人工光合成系の創製に近づきたいと考えています。

土肥グループでは、π電子系有機分子連結において新たな手法を開発し、既存にない分子骨格を持つ物質の合成をめざしています。土肥らの研究室ではクロスカップリング反応を用いた有機合成手法の開発において先進的な研究を行っています。とりわけ異なる芳香環を結合させるクロスカップリング反応の研究で他をリードしており、これまでに超原子価ヨウ素の特異な性質を利用し、フェノール類やアルキルベンゼン類、ヘテロ芳香環などの直截的な化学変換に成功しています。

土肥は、これまでの成果を活かし、本来クロスカップリングでは不可欠なレアメタルなどの希少な化学資源を用いずに有用な骨格を構築する新規合成法を実現し、新規物質の合成を試みます。その一つとして芳香環の連結を制御しながら連続的に行う「繰り返し連結法」を発展させ、高度に構造制御された混合オリゴアレーン類の簡便な合成法の確立に取り組みます。新たに開発した手法を用いて合成した新規骨格の物質を他の前田・民秋グループの研究素材として展開していきます。

これまでにない原理に基づいて新規有機材料を開発し
科学・技術の進展と産業の発展に貢献したい

3グループでの研究を通じて物質の原子・分子レベルでの相互作用(結合・会合)と発現する物性・機能性の相関を整理し、多種多様な物質・材料ライブラリーの構築も可能にしたいと考えています。

科学・技術や産業をさらなる発展に導くには、既存の機能性物質の改良に留まらず、まったく新しい原理に基づいて既存にない物質を創製し、既存にない機能を発現させる必要があります。それには素材の化学的な性質や特異性を十分理解し、原子・分子レベルからマテリアル開発の方法論を根本的に考えていく基礎研究が欠かせません。

今日有機化学分野は専門が細分化され、専門の垣根を超えた融合や連携はけっして多くはありません。本研究プロジェクトでは身近な環境で3分野が緊密かつダイナミックに連携することでアイデアを創発し、既存の研究を凌駕する有機物質の創製が実現できると期待しています。

研究期間

2017年度〜2021年度

研究活動進捗・成果

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図

有機生命資源の有効利用による電子・光機能材料の創製