研究拠点Ⅰ 地球の自然環境の復元カーボンニュートラル実現へ向けた
高効率エネルギー利用技術創成拠点

カーボンニュートラルという大きな課題に貢献するためには、エネルギー利用技術でのイノベーション創成と、エネルギー分野で世界を先導する高度人財の育成が求められます。そこで本研究拠点は、化学、電子、光・量子、さらには社会科学の研究者も加わった異分野融合型のプロジェクトを構成し、原子・ナノレベルの材料の開発から解析、デバイス化、さらには社会普及にまで取り組みます。これまでにないオリジナルの学際領域を創成し、カーボンニュートラル実現へ貢献することを目指します。

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化学・物理・社会科学の融合で、
「創エネ」「省エネ」「蓄エネ」「再エネ」に横断的に挑む。

世界では現在、脱炭素化社会の実現へ向けた温室効果ガスの排出削減が急務となっています。各国におけるカーボンニュートラルを推進する動きは加速しており、日本でも「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、2030年の46%削減、2050年の実質ゼロという温室効果ガス削減目標が示されています。しかし、それらの達成は容易ではない状況にあります。
カーボンニュートラルの実現に向けては、エネルギー・資源の循環を、エネルギーをつくる「創エネ」、効率よく使う「省エネ」、ためる「蓄エネ」、再利用する「再エネ」という4つの面からマクロに捉え、エネルギーとの共生という視点から、エネルギー・資源循環型社会の実現を目指すことが必要です。また、カーボンニュートラル実現に貢献する革新的技術は、多様な学問領域・技術領域から結集した新学術領域を創成し、既存の研究軸から逸脱したテーマを模索することから生まれてくるはずです。
そうした考え方を踏まえ、本プロジェクトでは電気化学、半導体工学、量子科学、触媒化学、計測科学、さらには資源リサイクルの研究者が、異分野融合のチームを結成し、エネルギー利用での次世代技術の創成に挑戦します。また技術開発だけにとどまらず、産学連携の視点や社会科学研究者による半導体・電池関連材料循環システムの調査および諸外国社会制度の比較から、社会実装の手段を見出すことも目指します。さらにそれらの活動を通じて、学術研究・産業貢献・先端解析の経験を持ち俯瞰的研究能力を有し、カーボンニュートラルに貢献できる力量を備えた若手研究者の育成をはかります。

世界にも類を見ない「界面基礎学理」の学際研究領域を
異分野融合によって立ち上げる。

本プロジェクトは、電気化学の折笠グループ、電子・半導体工学の荒木グループ、光・量子の毛利グループ、分析化学の稲田グループという4つのグループによって構成されています。4つのグループが、それぞれの分野で研究を深めながら連携研究を進めることで、学術的なアウトプットを見いだすとともに、産学連携のチームを構成することにより、学術研究を社会貢献へつなげるための基盤を確立することを目指します。

折笠がリーダーを務める第1グループには、2つのテーマがあります。ひとつは「蓄エネ」。現行のリチウムイオン電池を凌駕する新たな二次電池をターゲットとし、次世代で活用できる新原理の創出に挑戦します。 近年、リチウムイオン電池の次を担う二次電池の研究競争が世界規模で行われてきましたが、これまでに提案された次世代二次電池はどれも解決困難な課題を有し、新規デバイスを創製することが難しく、次世代のターゲットを見いだす動きは停滞しているといえます。そこで本グループでは既存の研究の延長線上に位置するデバイスや反応系を対象とせず、意図的に逸脱した領域、例えば、多価カチオンやアニオンをキャリアとする二次電池と、光エネルギーを組み込んだ高速充電を対象に設定して研究を進めています。 もう一つは「再エネ」。グループに加わっている経営・社会学の研究者の視点から二次電池普及の要因を解析し、回収・リサイクルまでを見据えた循環型デバイスの実現に必要な因子を明らかにすることで、真に地球環境を保全する二次電池を見いだそうとします。

荒木グループでは、分子線エピタキシー装置を使って、窒化物半導体の結晶成長と電子光物性制御の実験を行う

荒木グループでは、分子線エピタキシー装置を使って、窒化物半導体の結晶成長と電子光物性制御の実験を行う

荒木の第2グループでは、「省エネ」のキーテクノロジーとなるワイドギャップ半導体に着目。その高品質化のための基盤技術開発を担います。
ターゲットは、窒化ガリウムに代表される窒化物半導体と、酸化ガリウムに代表される酸化物半導体。これらは、シリコンと比較して大きなバンドギャップを有することからワイドギャップ半導体と呼ばれ、すでにシリコンでは実現できなかった光デバイス応用、電子デバイス応用が実現されるなど「省エネ」への貢献が始まっていますが、さらなる進歩には結晶の高品質化が不可欠です。 そこで窒化物半導体については、高真空中で原子層レベルの結晶成長が可能な分子線エピタキシー(MBE)法を駆使し、窒化物半導体結晶成長と電子光物性制御の技術開発に取り組みます。また酸化物半導体については、グループ内のチームリーダー金子(京都大学)らによって発明されたミスト化学気相成長(CVD)法を駆使し、各種酸化物半導体薄膜の材料創製技術とデバイス特性評価技術の開発を進めます。


本プロジェクトのグループの相関と、成果イメージ。

本プロジェクトのグループの相関と、成果イメージ。

毛利の第3グループでは、新規「創エネ」技術の開拓を目指します。次世代エレクトロニクス材料として注目されるグラフェン系原子層材料を活用した高効率エネルギー利用技術の開拓を目指し、毛利が研究を進める「モアレ超格子形成」をはじめとする原子層界面の幾何構造制御手法を活用。熱エネルギーや光エネルギーなどの自然エネルギーを、高効率に電気エネルギーに変換する技術の開拓に挑みます。

稲田の第4グループは、折笠・荒木・毛利の3グループの研究を支える解析研究を行います。国内に10カ所、私立大学では立命館大学BKCのみにある放射光施設「SRセンター」での最先端量子ビーム解析も活用。上記3グループで創成された新技術のメカニズムを、X線吸収分光・光電子分光・軟X線顕微鏡の適用により解析し、アプリケーションの観点を超えた学術面からの新規性を明確にするとともに、触媒化学の技法を適用したエネルギー関連材料を開発し、新機能の発現による機能面でのブレークスルーの誘発を目指します。

グループ間の連携研究では、まず折笠グループと荒木グループによる電池分野・半導体分野の異分野融合が期待されます。実は電気化学の分野では、反応部位である界面がどのようになっているか、いまだにしっかりと理論構築がされていません。一方、半導体の分野では接合界面の理論がしっかり構築できています。本プロジェクトでは、この両分野の融合がブレークスルーの揺籃になると考えています。そこには毛利グループのナノ物理学と稲田グループの量子ビーム計測の研究者も参加し、電池の反応の起点である界面を制御するための基礎学理の構築に取り組みます。この異分野融合型による「界面基礎学理に基づくエネルギー有効利用」という学際研究領域は、世界にも類を見ないユニークなものになるはずです。

電池分野・半導体分野などの異分野融合により、二次電池内部現象を反応中に直接観察する手法を開発し、界面基礎学理の構築に取り組む。

電池分野・半導体分野などの異分野融合により、
二次電池内部現象を反応中に直接観察する手法を開発し、
界面基礎学理の構築に取り組む。

カーボンニュートラル実現へ貢献するため、
常識から“逸脱”し、“超える”。

電気化学エネルギー変換デバイス、中でもリチウムイオン電池は、エネルギー有効利用の1つ「蓄エネ」において大きな役割を果たし、その研究開発がノーベル賞を受賞するなど輝かしい評価を受けています。しかし、現在のリチウムイオン電池では、将来のエネルギー需要と安全性の要求を満たすことは難しく、数十年単位で考えれば、従来の設計思想を抜本的に超えた二次電池の開発が不可欠です。「蓄エネ」だけではなく、エネルギー利用技術においては、各方面で同様にイノベーティブな次世代技術が待望されています。
本プロジェクトが目指すのは、既存の研究軸から逸脱することで、既存のエネルギー変換デバイスにおける問題点を解決できる、新たな研究対象を発掘することです。従来のエネルギーデバイスの高性能化や、世界を先導できるエネルギーデバイス創製につながる、反応の新原理と実用デバイス設計のための新基軸を創出したいと考えています。 カーボンニュートラルという巨大で複雑な問題は、1つの革新的発明だけで解決することは不可能です。異分野融合型の本プロジェクトは、既存の概念を超えた構想により、原子・ナノレベルの材料からマクロな社会制度にまで取り組みます。ここから生まれた研究成果が、カーボンニュートラルの実現に貢献すること、さらには50年後のノーベル賞の内容の端緒となることを願い、研究を進めていきます。

Event

【終了】低次元材料若手研究者共同セミナー

日時:2023年5月31日(水)13:30~
場所:立命館大学BKC ウェストウィング2F 電子システム系共同研究室