プロジェクトリーダー
理工学部電気電子工学科 峯元 高志 教授 (写真 中央)
グループリーダー

「暮らしのスマート化」を持続可能な自然エネルギーで実現するデバイス・技術・社会システムを創成

持続可能な自然共生型エネルギーを用いて
「暮らしのスマート化」を実現するための技術・学術を研究する

本研究プロジェクトでは、少子高齢社会において必要とされる「暮らしのスマート化」と「暮らしを支えるエネルギーの自然共生的な持続供給」に貢献するための新技術・新学術研究に取り組んでいます。

地球規模でのエネルギー需要の増大に伴う化石燃料の枯渇や環境汚染といった問題は依然として解決されておらず、環境負荷の少ない持続的な自然共生型エネルギーに対する需要はますます大きくなっています。そうした現代において高齢者の生活をアシストすることはもとより誰にとってもより便利かつ快適な生活を実現するため、住居(暮らし)の機械化・情報化・知能化を進める上では、電力をはじめとしたエネルギーの効率的な使用も重要な課題の一つとなります。本研究プロジェクトでは、エネルギー、最適制御・知能化に関わる技術を通じて持続可能な自然共生型エネルギー(クリーンエネルギー)を用いた「自然共生型システム」を創造し、「暮らしの質の向上」を実現したいと考えています。

具体的には、持続可能な自然共生型エネルギーとして太陽光発電、バイオ燃料電池に焦点を当て、自然エネルギーを電力エネルギーに変換し、電力を「作る」技術・デバイス、続いて作った電力を「効率よく使う」ための蓄電やエネルギーマネジメント技術、さらにより広域で電力を融通し合うための電力管理や取引メカニズムの研究に総合的に取り組み、社会実装することを最終目的に据えています。

デバイス開発からエネルギーマネジメント技術開発、
さらに社会システムの創成までを総合的に取り組む

研究においてはエネルギー変換デバイス開発、エネルギーマネジメント技術開発、およびエネルギーイノベーションメカニズム研究の3つのグループで進めています。

まず峯元グループでは、電力エネルギー変換デバイスとして太陽電池とバイオ燃料電池の開発を行います。中でも注力するのは化合物薄膜太陽電池の開発です。現在市場の約9割を占めている太陽電池は、結晶Si(シリコン)を材料に作られています。しかしSiはその生成プロセスで高エネルギーを必要とすることから低コスト化に限界があります。それに対して峯元グループではシリコンを使わず、銅(Cu)、硫黄(S)といった豊富にある元素や有機材料をはじめ、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)などを材料としたCu(In,Ga)(S,Se)2太陽電池の開発を続けてきました。Cu(In,Ga)(S,Se)2太陽電池はすでに実験室レベルで22%という高い変換効率が実証されており、商業生産も進んでいます。本グループでは太陽電池薄膜の光吸収層(p型半導体層)とその上のバッファ層(n型)との親和性を高めるなどを通じて高効率化を図るとともに、新たな透明電極材料を開発するなど新規材料開拓にも取り組み、理論限界に迫る変換効率24%の達成を目指します。加えて生成プロセスにInなどのレアメタルを用いないCu2SnS3やSnS太陽電池の開発も進めています。また本研究プロジェクトでは自動車などのモビリティを利用した送配電システムの導入も構想していることから、自動車のルーフなど曲面に塗布可能な柔軟性に優れた薄膜の開発も進めています。もう一方では木材など有機物の廃材を燃料として発電するバイオ燃料電池の開発も行います。

高効率充電器

SiCトランジスタを使った小型高効率充電器

続いて福井グループでは、作った電力を「効率的に使う」という観点から、蓄電システムおよび高信頼・高効率な知的電源管理システムの開発を進めています。自然エネルギーを利用した発電システムは天候や時間によって発電量にバラツキがあるため、電力を有効に利用するには蓄電技術が欠かせません。本グループではそのための蓄電デバイスとともに、電力をより有効に利用するための小型で高効率な直流変換器の開発に取り組んでいます。加えてこうした蓄電・電力変換デバイスの安全性を高め、高効率化、長寿命化を実現するには太陽電池や燃料電池を含めてトータルに最適制御するバッテリーマネジメントシステムが必要です。本グループでは蓄電池内部の温度や蓄電状態、劣化状態を高い精度でセンシング・制御し、熱による事故を完全に防ぐ技術を開発。さらに端末センサーと通信、ホストコンピュータを組み合わせたIoTデバイスで、蓄電池の劣化診断や温度上層などの異常検知、熱暴走による事故防止を可能にする高信頼・高効率な知的電源保守管理システムを完成させます。

3つ目の島田グループは、再生可能エネルギーを地域に大量導入した後、安定した電力供給を継続するための「予測型エネルギー管理メカニズム」を明らかにすることに加え、再生可能エネルギーの新たな取引市場をデザインし、社会システムとして実装するための研究を行っています。まずシステム制御の観点から、気象・気候の変動による再生エネルギーの発電量や需要を高精度に予測する統計的モデルを構築しようとしています。さらにその予測に基づいて、発電と消費の両方を行う「プロシューマー(prosumer)」(家庭・小規模事業者)、予備電力の確保や余剰電力バッファのための分散型電源(蓄電池)を組み込んで需給バランスを保ち、電力をうまく融通し合いながら地産地消を実現するエネルギー管理アルゴリズムの構築を目指します。

一方で再生エネルギー大量導入にあたっては、取引市場が未成熟で安定供給のためのバックアップ電源容量の不足を補う手だてがないという課題があり、プロシューマー間取引や、電力不足の際のバックアップ機能を担う卸電力市場を取り入れた取引市場の創成が待たれています。本グループでは地域の気象条件や需要変動をもとにプロシューマーの行動を解明し、最適な電力取引のメカニズムを理論的に検討します。さらに福岡県みやま市や兵庫県の淡路島など、自治体が主体となって再生可能エネルギーによる電力需給を推進する自治体に理論研究の成果を導入し、実証実験を実施。理論から導き出されたメカニズムデザインの有効性を地域で実証し、社会実装に近づきます。

独創的な研究プロジェクトで革新的なデバイス開発のみならず
予想もつかない新技術・新学術の創出も可能に

クリーンエネルギーの有効活用は地球規模で重要な課題の一つであり、国内外に多くの先進研究機関でも次世代蓄電技術や次世代エネルギーの研究が進められています。しかし少子高齢社会を見据えて「暮らしのスマート化」という具体的なテーマに絞り、理工系から人文系分野まで広域な学術分野が融合してデバイス開発からエネルギーマネジメント、社会システムの設計までを総合的に研究する例は他にありません。こうした独創的な研究プロジェクトだからこそ革新的なデバイスや技術はもとより、現時点では予想もつかない新しい技術や新たな学術の創出も可能になると期待しています。

研究期間

2017年度〜2021年度

研究活動進捗・成果

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図

暮らしのスマート・エネルギーイノベーション研究拠点

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