プロジェクトリーダー
総合心理学部総合心理学科 矢藤 優子 教授 (写真 中央)
グループリーダー

乳幼児期から老年期まで人生をシームレスに扱う新しい対人援助の方策を探究する

乳幼児期から老年期までの各段階をシームレスに扱い
統合的な人間科学と社会実装を目指す

乳幼児期から児童期、青年期、壮中年期、老年期まで、人は人生の各段階でさまざまな困難に直面します。本研究プロジェクトでは、「対人援助」をキーワードに人生の各時期の育ちや学びの過程、さらにそれぞれが抱える課題を学融的に研究し、科学的根拠(エビデンス)に基づいた援助の方策を見出すとともにそれを社会実装していくことを目的としています。

本研究プロジェクトの特長の一つは、人生の各時期に焦点を当てるだけでなく、人生全体を通して考えるべき発達障害・知的障害などの問題を取り上げ、シームレスな対人援助の方策を検討するところにあります。これまで対人援助・発達支援領域では学問の縦割りと細分化によって、人生のある時期のつまずきや障害を次の段階で回復させるというような柔軟な視点に欠け、長期的な視点で回復を支援していくことは困難でした。しかし現実には幼少期に負ったトラウマが青年期になって顕在化したり、児童期の学習のつまずきが青年期のキャリア形成に影響し、それが後の人生を決定づけるということが往々にして起こります。本研究プロジェクトでは各研究グループが独創的な研究を行うことに加え、人生の各時期をシームレスに扱うことで新しいエビデンスの提供やより効果的な支援を可能にし、こうした社会的・学術的な課題を克服しようとしています。

また人生の時期や対象者のみならず、研究手法をシームレスに扱うことも従来にない取り組みです。神経科学・生理学的手法から個別の対象者に迫る質的研究手法まで発達段階や対象者と不可分に結びついている多様な研究手法をプロジェクト間で相互利用することで、統合的な人間科学とその社会実装を実現します。

神経科学・生理学的手法、質的・量的手法など
多彩な研究手法を駆使してエビデンスを蓄積する

研究では、乳幼児期、児童期、青年期、壮中年期、老年期の5つの時期に分けて研究グループを構成し、各領域の最新の研究手法を駆使するとともに他領域の手法も積極的に採用し、実践のためのエビデンスを蓄積します。

まず乳幼児期を対象とする矢藤グループ(イメージ図のグループ1)では、特に親子の社会的関係に焦点を当てて子どもの育ちと養育者の子育て、またそれらに影響を与える社会的・物理的環境要因を検討します。行動観察や行動計測、生理指標などさまざまな手法で精度の高い定量的データを蓄積し、科学的根拠に基づく子育て支援のあり方を明らかにしたいと考えています。

6ヵ月から36ヵ月の子どもと養育者を対象に、モーションキャプチャを用いて身体の動きと両者の同期性を計測したり、子どもがデジタルペンを使って取り組んだ描画課題を解析し、各行動を定量的に捉えます。こうした行動を捉える研究に加え、養育者および子どもの唾液などを採取し、生理指標を用いた測定も行います。さらには全国規模のWEB調査を実施し、子どもの社会性の発達や育児困難について量的データも収集する他、病院と連携し、妊娠中のエコー画像を用いた胎児期の行動観察も行います。こうして多様な方法で親子の社会的関係を定量化し、両者を取り巻く環境要因を縦断的に調査することで、親子関係の中で生じるつまずきを早期に発見するとともに、早期介入を可能にする子育て支援システムを開発し、社会実装することを目指します。

続く岡本グループ(同グループ2)では児童期に着目し、とりわけ学習者と教育者を対象に教育学的な研究を展開します。脳活動計測などの神経科学的手法や視線計測といった生理学的手法を用いて教師の教授活動と学習者の学習活動の特性を解明しようとしています。まず「個別学習条件」として学習者が一人で課題解決を行う過程、続いて「教授-学習条件」として学習者の課題解決を教師が適宜助言する過程、さらに「教え-学び合い」条件として学習者同士が学び合いながら課題解決を行う過程に分け、それぞれの行動過程で対象者の脳活動と視線を計測します。この結果をもとに教師の助言や指導の特徴をモデル化するとともに適切な指導や支援のあり方を明らかにし、教育現場に還元することを目指します。

3つめの安田グループ(同グループ3)では、青年期を対象に「ナラティブ」な視点を取り入れた質的研究を行っています。一人ひとりの人生に焦点を当て、個別で多様な人生の物語に迫るのが「ナラティブ・アプローチ」の特長です。「複線径路等至性モデリング(TEM)」と呼ばれるプロセスを捉える質的アプローチの方法論を用いて、青年期のキャリア発達とその支援・教育について考えます。

4つめのサトウグループ(同グループ4)では、壮中年期におけるQOL(quality of life)について研究しています。たとえ同じ世代であってもQOLは個々によって異なるはずだという観点から「個人」に寄り添った調査を行うところに新規性があります。「項目自己決定型」という個別の違いに対応した方法論で対象者のQOLを測定。その結果を個人のQOLを理解するためのカウンセリングツールの開発に役立てます。また健康づくりを通じたQOLの向上にも関心を持ち、福島県のある地域で住民が主体となって実践している健康づくりの取り組みも調査しています。

最後に鈴木グループ(同グループ5)では、老年期を対象に脳活動計測を用い高齢者の認知機能に迫る研究を行います。特に運動抑制の機能低下と関連している変数について、多角的なデータを収集し解析することで、高齢者に優しい社会作りに繋げていきます。また、少子高齢化に併せて国際化も進んでおり、ダイバーシティに関わる場面における対人援助の重要性も増してきています。外国人コミュニティにおけるメンタルヘルスとメンタルウェルネスの調査や地域コミュニティにおける異文化受容の検討、心理症状の国際比較調査を行うことで、多様な背景を持つ人たちが暮らしやすい社会の方向性を見出していきます。

優れた研究を通じて女性研究者を育成するとともに
生涯発達・混合研究法センターの設立を構想

以上のように人生のそれぞれの時期の人の発達を関係性として捉えることに加え、量的研究と質的研究を融合させる研究も他に類を見ません。こうした画期的な試みを通じて科学的根拠に基づくまったく新しい対人援助の方法論を見出すとともに、支援者支援の枠組みを構築し、社会に実装することが最終目標です。将来は人間科学に関するあらゆる方法論や支援者支援のために必要な知識を得ることのできる通過点として機能する国内随一、世界有数の拠点となる「生涯発達・混合研究法センター」を設立することを構想しています。

また本研究プロジェクトでは各グループリーダーを筆頭に研究者の過半数を女性で占めるという方針を立て、急務といわれる女性研究者の育成にも力を注いでいます。各分野の第一線で活躍する女性の研究者を結集し、画期的な研究を実践することで優れたロールモデルを提示し、将来の女性研究者の質の深化・量の拡大の礎となりたいと考えています。

研究期間

2016年度〜2020年度

研究活動進捗・成果

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図

学融的な人間科学の構築と科学的根拠に基づく対人援助の再編成イメージ図

関連リンク