なりたい職業ランキングに農業がランクインする未来とは
― 楽に、安心して、収入を増やせる農業を目指して ―

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石川
石川 和也
ISHIKAWA Kazuya
立命館グローバル・イノベーション研究機構 助教
専門分野
植物保護、環境農学、植物分子生理学、植物分子遺伝学、遺伝育種学、作物生産学

R-GIROで行っている研究をおしえてください。

現在行っている研究は、イネの環境ストレス適応機構になります。植物は移動の自由がないため、ほとんどの場合一生を同じ場所で過ごします。イネは、そこがどのような環境であろうと、その環境に適応し生育しています。ただ、イネの環境適応能力にも限界があり、限界を超えると枯れてしまいます。私はそのイネの環境適応機構を解明し、より環境に耐性を持つ (適応能力が高い) 品種の育成を目指しています。具体的には、病気に強いイネ、暴風雨で倒れないイネの作出に取り組んでいます。また、最近では野菜の葉の形態と環境ストレスとの相関関係にも興味を持って取り組んでいます。葉がしわくちゃの野菜がありますが、そのしわくちゃの理由を調べていると環境ストレスと関係していることがわかってきました。生産者の経験だけを頼りにするだけではなく、その理由を科学的に明らかにできれば、一律で育てることができるようになり、安定した農業につながります。このように、「葉の形態が特徴的な野菜の育て方に貢献できたら嬉しいな。」と、心に思いながら研究を行っています。

写真1

イネの倒伏

写真2

花が咲く前のパセリ

研究のおもしろさは何ですか。

研究の面白さは、謎解きです。さらに、謎を自分で見つけるのも楽しいです。小さな子供がいろんなものに興味を持って親に「なんで?」と、質問するのと同じです。大人になる程気付かないことは多くなりますが「なんで?」を発見し、それを妄想し、自分の手で妄想があっているのか、間違っているのか確認できることが、研究の面白さではないでしょうか?漫画やドラマ、映画などでも次が気になる展開がありますが、それと同じように植物観察をしています。

写真3

稈の硬さの測定

写真4

実験室にて

研究で未来をどう変えたいですか。

私の研究は、大きく未来を変えることは難しいかもしれませんが、農家の方々が少しでも楽に、安心して、収入を増やせる未来を描いています。日本で農業を行う人が増え、なりたい職業ランキングに入ることが目標です。一方、世界に目を向けるとまだまだ農業には発展の余地があります。運が良ければ、それに役立つかもしれないと思いながら、研究しています。一番の課題は、新しい科学、技術を受け入れてくれる環境を作ることだと思っています。そのために、将来主役になる学生の方々が新しい知識を正しく理解し、社会の発展を推し進められるように、教育にも力を入れています。

研究者を志したエピソードを教えてください。

私はもともと研究者を志していたわけではなく、ただ実験が好きだったので博士課程まで進みました。当時は、本当に何も考えておらず、単に妄想好きの変人だっただけかもしれません。その後、いろいろな縁で多くの場所で働いていくうちに経験値が増えて、研究が楽しくなり今に至っています。楽しくなった理由の一つは、海外の学会でカタコトの英語で発表しているのに、多くの人が興味を持ってくれたことです。自分がやったことが褒められ、他人と共感し、一緒に考えて知恵を絞ることは研究でなくても非常に良いことだと思います。これが、モチベーショにも繋がります。私は、それが最初に研究成果を発表した時に体験できたのが幸運でした。今でも、その瞬間が好きです。

石川先生は、異分野融合の研究で成果を出されていますが、異分野融合研究をどう思いますか。

材料工学や数理学を専門とする研究者とイネの倒伏について研究を行ない、Scientific Reports (13 : 10828 (2023))に報告しています。異分野融合という響きはいいですが、簡単ではありません。まず、お互いの利益になる、つまりwin-winの関係でないと成り立ちません。そして、お互いが同じことに興味を示し、分野の違いを理解し、勉強し、意思疎通を行わないといけないため、労力が非常にかかります。同じ疑問を共有し、一緒に考える研究者を探すのが一番大変で、大事なことだと思います。しかしながら、これらの課題を乗り越えると、独自性の極めて高い成果が得られるだけでなく、その分野の第一人者にもなれます。現在も、私自身の研究の強みである植物の力学に関する研究を共同研究として行なっています。さらに最近では、プラズマ農業の実装に向けて、プラズマの研究を行なっている多くの研究者の方々と異分野融合研究を行なっています。

(取材:2025年7月)