高齢者と共に描く、誰もが楽しめる未来のUI
研究者を志したエピソードを教えてください。
私は大学時代に福祉工学を専攻し、高齢者や障がい者、そしてそれを支える方々と触れ合う機会が多くありました。その中で、テクノロジーの力を支援につなげたいという思いが芽生えました。VR(Virtual Reality)技術は、現実世界ではできないことも体験でき、移動を伴わず在宅等での社会参加を可能にします。さらにあえて不便さを設計してトレーニングやリハビリに活用できる柔軟性もあり、大きな可能性を感じました。こうした技術の可能性を高齢者や障がい者が十分に活かせるように、人と技術の間のギャップを埋め、両者をより自然につなぐ仕組みをつくりたいと思い研究の道へと進みました。
R-GIROで行っている研究をおしえてください。
高齢者が使いやすいVR操作インターフェースの設計を目指しています。高齢者は認知・身体機能の低下により、若年者とは異なるUI(User Interface)を必要とする可能性があります。そこで視線やまばたきなど目の動きを用いるアイジェスチャや足の動きを用いたフットジェスチャなど、複雑なコントローラに頼らず身体の自然な動きを活用するジェスチャ型UIに注目しています。ただ直感的で学習負担が少ないメリットがある一方で、身体・認知機能の低下による影響を受けやすく、実際の使いやすさを検証することが重要です。我々は、実際に高齢者にVRを体験してもらい、話を聞きながら課題や改善点を見つけ、一緒によりよいインターフェースを作っています。
高齢者が直感的に使えるVR操作インターフェースを通じて、テクノロジーと人との距離を縮めることを目指しています。将来的には、高齢者がVRを活用して認知機能や身体機能の維持・改善を図るだけでなく、外出が難しい方がバーチャルな社会活動や趣味を楽しめる未来を描いています。
フットジェスチャを用いたVR空間の操作
アイジェスチャを用いたVR空間の操作
異分野融合研究をどう思いますか。
異分野融合で研究するR-GIROの中で特にありがたかったのは、心理学や認知科学の視点について議論できる環境があったことです。特に、認知機能にも着目することで新しい技術の展開が可能になったと感じており、異分野の知見が研究の広がりに大きく貢献しました。さらに、高齢者施設での実験も、この異分野のつながりがあってこそ実現できた貴重な経験です。実験を進める過程では高齢者特有の問題も多くありましたが、そのたびに他分野の研究者と相談しながら進められたことは大きな支えとなりました。
研究についてのポスターセッション
(取材:2025年7月)