「ひらく、ミライの扉」

Win-Win-Winの社会システムをつくる

Key08
光斎 翔貴
光斎 翔貴
KOSAI SHOKI
立命館大学食マネジメント学部 准教授
R-GIRO所属期間 (2021.04~2025.03)助教を経て准教授
専門分野
資源循環、資源セキュリティ、環境影響評価

研究内容をおしえてください。

私は、ライフサイクル思考(製品・サービスのライフサイクル全体を考慮する考え方)を元に、資源やエネルギーの安定供給性やライフサイクル全体における環境負荷の分析を行っています。その対象は車やバッテリー、家電製品から農業・漁業に関わる食料分野にも幅を広げています。また地方活性化を目指し、地域に眠る未利用の資源やゴミの有効利用に関する研究も行っています。直近では、海の環境を荒らす藻食性未利用食害魚をドッグフードとして開発し、販売を行うなど、研究だけに留まらず研究結果を社会に実装するまでを興味の範囲としています。

オーシャンハーベスト

オーシャンハーベスト
磯焼けを食い止めたい、との思いで愛犬の健康と海の健康を育むドックフードを販売する
オーシャンリペア株式会社を設立。https://www.oceanrepair.co.jp/

研究のおもしろさは何ですか。

研究の魅力は、知的好奇心が満たされること以上に、現地に赴き人々と協働しながらなにかを成し遂げることです。例えば、直近ではボルネオ島マレーシア領サラワク州のジャングル奥地に行きました。ここでは、原住民の人々が自然と調和した環境負荷の低い生活を送っている一方で、電力が供給されておらず、食の保存のための冷蔵庫や灯りなどがなく生活の質は非常に低いです。国際共同プロジェクトの一環で研究仲間と一緒にソーラーパネル・インバーター・蓄電池を導入し、電力供給を行うことができました。その際の人々の感動に触れたとき、研究の社会的意義を実感しました。また、そこでしか食べられない食事や人に出会うと、自分の人生観にも影響を与えます。これも研究活動のおもしろさの一環だと思います。

マレーシアの電化プロジェクト

マラヤ大学Dr. Tanと共にマレーシアのボルネオ島における電化プロジェクトにて太陽光パネルを導入する様子

研究で未来をどう変えたいですか。

私の研究の目的は、関係する全てのステークホルダーがそれぞれの立場でウィンになる社会を実装することです。現在のSDGsに関わる取組の中には、ある一つの側面がよくなる一方で、他の別の側面がむしろ悪化する、というような例が散見されます。果たしてこれは持続可能なのでしょうか?私は、三方よしの社会システムを構築したいと思っています。例えば、上記の藻食性未利用食害魚の有効利用はまさにその例です。今まで漁獲されてこなかったこの魚を有効利用することで、藻場回復が期待できます。これはブルーカーボン創出に繋がり地球温暖化対策になるだけでなく、生物多様性保全に寄与します。また、漁業者の所得向上にも寄与することから、年々衰退する日本の漁業の復興の一助になると考えています。さらにこの魚は愛犬の健康に非常によいことからペットケアの側面も大きいです。ボトムアップの形ではありますが、このような社会システムを多く作っていきたいと考えています。

R-GIROプロジェクトに携わって得られた経験をおしえてください。

論文を書き続け、外部資金を取り続けることの重要性を知ったことが、R-GIROで得た最大の経験だと思います。研究活動は自転車操業の側面が多分にあります。資金があるから研究ができ、研究ができるから論文が書け、論文があるから実績として新たな外部資金が得られるというループです。特に私は自分で外部資金を取りにいくことが求められていました。必死に論文と助成金申請書を書き続けたことが今の胆力に繋がっていると思います。またマネジメントの仕方もすごく勉強になりました。プロジェクトリーダーである山末先生は、私の性格を踏まえた上で、私が自由に研究しやすい環境作りをしてくださいました。ガチガチに縛られた環境では今のキャリアパスは描けなかったと思います。人をどうマネジメントするかという事を山末先生の一番近くで盗み見ることができたことは、私の大きな財産となりました。

若手研究者へ向けて

人によって考え方は違うので話半分でいいのですが、60%の完成度でもいいから論文や申請書を出し続けることが重要だと思います。客観的に自身の研究者としての位置を低めに見積もっている方は特にそうです。もちろん、完成度の高いものであるに越したことはないですが、完成度にこだわりすぎて何も出せない病に陥る方を多く見てきました。自分が見たら微妙な結果でも別の人が見るとすごく評価されることはよくあります。自分が納得しなくても形に残すことに私は意味があると思っていますし、この仕事は研究者である以上に執筆者である場合が多いです。もちろん「量より質」派の考え方も非常によくわかりますが、私は特筆した研究者ではないので「質より量」派でキャリアを作ることに専念してきました。

山末先生と光斎先生

山末先生との出会いに感謝!

(取材:2025年9月)
参加しているプロジェクト: 資源パラドックス問題の解決に向けたマルチバリュー循環研究拠点