半導体が挑むカーボンニュートラルへの貢献
R-GIRO所属期間(2022.04~2024.08、専門研究員を経て准教授)
研究内容をおしえてください。
これまで一貫して半導体の結晶成長や特性評価に携わってきました。一般に、半導体は原子を規則的に配列させた結晶になって初めてその機能を発現するため、結晶品質が半導体の性能を決めます。そのため、「結晶をどのように作るか」という結晶成長メカニズムの解明と、「所望の特性をどのように得るか」という特性を制御する結晶成長技術の発展について研究してきました。
今、特に力を入れているのは、半導体を通じてカーボンニュートラルに貢献することです。創エネ(エネルギーを創出すること)の1つとして、窒化ガリウム(GaN)などのIII族窒化物半導体の熱電変換デバイスへの応用を提案しています。窒化物半導体は、青色・白色LEDなどの光学素子や、(トランジスタなど)スマホ・家電・自動車などに使われる電子部品に用いられている材料ですが、高性能化や高出力化するほど、動作中に発生する熱が大きくなり、深刻な課題になっています。そこで、この発生してしまう排熱を制御するため、熱を電気に変換できる熱電変換デバイスと組み合わせることが有効であると考えています。熱電材料として窒化物半導体を見ると、実は有利な特徴を多く兼ね備えています。しかも原子配列の乱れた部分である結晶欠陥をうまく利用することで、熱電性能を向上できる可能性があります。このように、半導体材料や結晶成長の新たな可能性を感じています。その他にも省エネに貢献する技術として、簡便で安価な結晶成長技術の開発にも取り組んでいます。エネルギー問題は、資源の乏しい日本だけではなく今や世界全体の課題であり、半導体の立場から貢献したいと考えています。
カーボンニュートラルに貢献するために、III族窒化物半導体の光・電子デバイスと熱電変換デバイスを組み合わせた排熱制御を提案している。
研究のおもしろさは何ですか。
学術面では、自分の研究分野の中で、世界の誰も分かっていない新しいことについて、実験や議論を通して得られる結果はもちろんのこと、明らかにしていく過程が楽しいです。単純に実験が好きなのもありますが、実験結果を研究者や学生と議論して、スマートな筋道で説明できたときにはスッキリします。産業面では、自分が携わっている学術や技術を研究した先に、何らかの形で世の中の役に立てれば嬉しいと思っています。教育面では、自分が指導している学生が予想以上の活動をしてくれたときに嬉しくなります。研究成果だけではなく、学会発表でうまく質疑ができたとか、実験で興味深い結果が得られたとか、丁寧に文献調査してきたとか、そういった日々の出来事で学生の成長を感じることが嬉しいです。この「楽しい」という気持ち、研究活動を楽しめていることこそが、研究を続けるモチベーションになっていると思います。
研究者を志したエピソードを教えてください。
もともと人に何かを教えることが好きで、学校ではクラスメイトに分からないところを教えたりしていましたし、大学在学時はアルバイトで家庭教師や塾講師をしていました。一方で、母が博士課程まで進学して歴史の研究をしており、幼少期からその話を聞いていました。史跡を訪れた際など、石碑や文書に書かれた文言をスラスラ読めるのを見て「かっこいい」と思っており、研究者に対する憧れのようなものを抱いていたように思います。その後、自分が研究室に入って研究を始めると、実験や研究が面白く、またご指導くださった先生方の優秀さや見識の深さに圧倒されました。そこで、大学教員は研究と教育が両立できる仕事だと思い、現在に至りますが、いまだに諸先輩方の足元にも到底及びそうにありません。自分なりにできることを地道に進めようと思っています。
R-GIROプロジェクトに携わって得られた経験をおしえてください。
これまで有機金属気相成長(MOVPE)という手法を用いた半導体結晶成長に取り組んできましたが、立命館大学で分子線エピタキシー(MBE)という結晶成長手法に携わり、自身の研究の幅を広げられたのが最大の経験でした。MBEは、維持の難しい超高真空を扱うため、あまりまめな性格ではない自分には難しいのではと思っていました。しかし、受入教員である荒木努先生の研究室は、窒化物半導体MBEにおいて屈指の技術と経験を有しており、またとない機会だと思い切って飛び込んでみたところ、結果的に非常に良い経験となりました。さらに、R-GIROプロジェクト内の先生方とも交流させていただくことができました。特に、プロジェクトリーダーの折笠有基先生が取り組まれている全固体リチウムイオン電池の研究は、以前から蓄電技術に興味を持っていた自分にとって非常に貴重な学びになりました。また、先生方が精力的に研究されている姿勢にも大いに触発されました。
荒木研での成果により国際会議で発表
若手研究者へ向けて
学位取得後、現職に至るまで任期付きポストが続き、異動を繰り返しました(現職が6ヶ所目)。自身の軸だと思える研究になかなか至ることもできず、研究でも教育でも挫折も多く、自分はこの仕事に向いていないのではと何度も思いました。それでも、人生で壁に当たったときに必ず手を差し伸べてくれる人がいました。目の前のことに真摯に取り組んでいると誰かが必ず見てくれているし、人間関係の重要性を実感しています。また、異動が多かったことは、多くの機関や立場を経験していると捉えることもできます。異動のたびに研究分野や学問を拡張することができ、しかもそれが後になって必ず生きてくる場面がありました。人生に無駄なことはないと実感しています。
研究者だけでなく色々な人と交流していると、思わぬところで研究のきっかけが生まれることがあります。研究予算などは、自分もなかなか採択されず焦りましたが、1つ通ると要領がつかめてくるところもあり、経験を重ねることで次第に継続的に獲得できるようになってきました。
大学教員は多忙な方が多いと思いますが、年齢を重ねると色々な業務を(お断りするのも含めて)バランスよくこなせるようになってくると思います。若手研究者の中には今まさに色々なことで悩んでいる方がいらっしゃると思いますが、焦らず目の前のことに集中していると、いつか必ず光が見えてきます。諦めないで踏ん張ってください。
(取材:2025年9月)
参加しているプロジェクト:
カーボンニュートラル実現へ向けた高効率エネルギー利用技術創成拠点