電気電子工学科 Electrical and Electronic Engineering

薄くて自在に曲げられる
次世代薄膜太陽電池を開発する

峯元 高志

峯元 高志理工学部 教授

簡単にエネルギーを供給できない場所でも自家発電しながら動くクルマやドローンなどの飛行体、意匠性に富んだビルの壁面や窓、あるいは高荷重に耐えられない工場の屋根など、今、従来とは異なる多様な場所に太陽電池の活用が広がりつつある。

現在世界の市場の約97%を占めるのは、結晶シリコン(Si)を材料とする太陽電池である。この結晶Si太陽電池は、低コストで耐久性が高く、住宅やビルの屋根に設置したり、メガソーラー(発電所)として地面に並べるには適しているが、2mm厚程度のカバーガラスが使用されており1㎡当たりの重量が11kg以上と重く、曲げることもできない。用途が多様化していく中で、どこにでも設置できる軽くて自在に曲げられるフレキシブルな薄膜太陽電池が求められている。

峯元高志が研究するCIS系太陽電池はその最有力候補の一つだ。シリコンの代わりに主に銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)を材料に使った太陽電池で、光を吸収しやすいという特長がある。光吸収係数はシリコン系太陽電池の約100倍。結晶Si太陽電池セルは厚さ約200μmであるのに対し、CIS系太陽電池は2~3μmにまで薄くすることができる。「しかしいくつか課題もあります。一つは結晶Si系太陽電池に比べて光電変換効率が低いこと。それに加えて、地球レベルの普及を考えた場合に、資源制約を受ける可能性のあるレアメタルを使うことです」と説明した峯元。現在、これらの課題を解決し、高い光電変換効率を実現するCIS系薄膜太陽電池の開発に、世界中の企業や研究機関がしのぎを削っている。その中で峯元は最近の研究で、従来より高い光電変換効率を実現する新しい薄膜作製方法を見出したことを報告した。

太陽電池の新用途に
強みのあるCIS系太陽電池で
世界最高に迫る光電変換効率を達成

CIS系薄膜太陽電池は、ガラス基板の上に裏面電極、光吸収層、バッファ層、そして最表層に透明導電膜を積層した構造をしている。峯元が開発に取り組んでいる中の一つが、Cu、In、Se、ガリウム(Ga)、硫黄(S)を光吸収層に用いた薄膜太陽電池だ。

光電変換効率を高めるには光吸収層により多くの光を入射させる必要がある。そこで重要になるのが透明導電膜とバッファ層だ。峯元はバンドキャップが大きい亜鉛(Zn)系混晶を材料に用いて各層の透過率を向上しつつ、成膜方法も試行錯誤を重ねている。「各層を作製する方法には、真空中で成膜材料を堆積させるスパッタ法や溶液に浸して所望の膜を堆積させる化学析出法などがあります。すべての成膜を前者のドライプロセスで行うのが理想ですが、技術的に難しいのが、光吸収層を損傷せずにスパッタ法でバッファ層を成膜することです」と言う。今回峯元は、硫化カドミウム(CdS)を用いることなくスパッタ法でバッファ層を成膜し、すべてドライプロセスで薄膜を積層することに成功している。

さらに峯元と共同研究者のチャンタナ教授は、NEDOプロジェクトの下、企業と共同で、CIGSSe光吸収層の薄膜を減圧空間に一定期間置いてからZnMgOバッファ層を成膜するという画期的な方法を見出した。「1日、1週間、2ヵ月、10ヵ月間それぞれ減圧空間に光吸収層を置いた結果、放置期間が長いほど光電変換効率が高くなることが判明しました。10ヵ月間置いた後にバッファ層を積層した太陽電池セルは、CIS系薄膜太陽電池セルの世界最高変換効率23.4%に迫る22.6%を達成しました」。

画期的な成膜方法でCIS系薄膜太陽電池セルの世界最高変換効率23.4%に迫る22.6%を達成した

一方で峯元は、太陽光スペクトル(分光分布)によって太陽電池の発電量に違いが出るという興味深い研究結果も発表している。太陽光は、波長によって紫・藍・青・緑・黄・橙・赤などの色に分布されるが、太陽電池は一定範囲の波長しか吸収できない。峯元は、NEDOプロジェクトの下、産業技術総合研究所と宮崎大学の協力を得て、滋賀県草津市、茨城県つくば市、宮崎県宮崎市の3カ所で、太陽光スペクトル別にCIS系薄膜太陽電池の発電量を試算した。その結果、太陽電池の出力特性を共通の条件で表現するための「基準太陽光」より短波長(青色)の光を観測した草津市で、最も多い発電量が得られると試算されたという。「太陽光スペクトルが青色の場所では、CIS系薄膜太陽電池モジュールが結晶Si太陽電池モジュールの平均的な年間発電量を約1%上回るという試算になりました」と峯元。つまり太陽光スペクトルの条件次第では、CIS系太陽電池は実発電量が高くなる可能性があるということだ。

エネルギー供給源を海外から輸入する化石燃料や原子力に頼っている日本にとって、社会情勢や気候変動に左右されずにエネルギーを安全かつ安定的に確保することは重大な課題であり、安全で環境に優しい再生エネルギーの重要性はますます大きくなっている。中でも有力視されているのが太陽光発電で、いまや日本の全電力需要のうち約8%を賄うまでに成長している。エネルギーセキュリティの強化や用途の多様化といったニーズに応える高効率なCIS系薄膜太陽電池の普及拡大に期待がかかる。

Profile
峯元 高志

峯元 高志理工学部 教授

研究テーマ
カルコパイライト薄膜太陽電池の開発、太陽光発電システムの屋外実証評価
研究分野
電子・電気材料工学、電子デバイス・電子機器
電気電子工学科について

電気電子工学科では、電子デバイス・電子システム、エネルギーシステム、光システム、通信システムという4つの技術領域を中心に、教育、研究を進め、持続可能な社会、安全安心な社会に貢献できる技術者・研究者を育成しています。

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