数理科学科 Mathematical Sciences

コマの回転運動を
幾何学を使って分析する

多羅間 大輔

多羅間 大輔理工学部 准教授

コマが回転する様子を思い浮かべてほしい。コマの回転は、回転軸の動きによって、安定な運動となることも不安定な運動となることもある。さて、こうしたコマの回転運動は、どのような数学と関わっているだろうか?

「コマなどの剛体の運動の数学的記述には、微分幾何学が使われます。特に、コマには回転軸まわりに回しても変わらない対称性があり、回転群に関するLie群の理論が使われます」と解説した多羅間 大輔。多羅間は剛体の回転運動という物理現象に現れる幾何構造を数学的に分析する、いわば「コマの幾何学」をテーマに研究を続けている。

多羅間によると、コマの運動などの力学の定式化にはシンプレクティック幾何学やポアソン幾何学という幾何学が使われる。運動の解析には、特異点(平衡点と呼ばれるバランスよく運動が止まったような状態)に関する幾何学的理論を背景とした力学系理論が必要になる。また、1つだけの(実)周期2πをもつ三角関数で記述できるバネの伸縮運動に対して、コマの運動の記述には2つの(複素)周期をもつ楕円関数と呼ばれる特殊関数が用いられるが、その背景には代数的・複素解析的幾何学という幾何学がある。さらに、実際の力学現象を数値計算で解析する際にも、シンプレクティック積分法と呼ばれる幾何学的な手法が用いられる。「コマや剛体の回転運動について、数理モデルの定式化はもちろんのこと、解析や応用も含めたあらゆる段階で幾何学的視点が重要です」と多羅間は語る。

物理学の具体的な問題を通して
豊かにイメージ化される数学

これまでの研究プロジェクトの一つで多羅間は、(自由)剛体の回転運動を数学的に拡張した力学系の解析を試みてきた。最新の研究では、大きなクラスに属す拡張された自由剛体の力学系に関して、平衡点まわりのふるまいの特徴づけに成功している。

「宇宙船の回転のような自由剛体の力学系については、古くからその可積分性(運動方程式の解が具体的に表示できること)や平衡点の安定性が知られています。しかし、その数学的拡張に関する平衡点まわりでのふるまいはよくわかっていませんでした」と多羅間。その定式化にあたって用いられるのがLie群の理論である。Lie群とは、回転全体のような、群構造をもつ多様体(曲線や曲面のようにパラメータ表示できるある種の操作の総体)を指す。「Lie群の理論を用いて実数の3次元空間を超えて複素数の高次元空間を含むような様々な空間における回転まで剛体の運動を広げて考えても、平衡点近傍の運動を明瞭な数式で記述できたのが、大きな成果でした」と言う。

多羅間の研究の特長は、「数理工学」の見方を基に数学を駆使して物理的な現象に迫ったり、物理現象から現れる数学的構造を明らかにしたりするところにある。

「数理工学には、数学や物理学といった学問体系に捉われず、それを融通無碍に応用して問題を解決する方法論があります。私にとっては力学などの物理学に現れる幾何学的な問題を解決するのが当面の課題です」と多羅間。例えば物理的には実数のみを用いて記述できそうなコマの回転運動も、数学的に複素数の世界にまで視野を広げ、より明快に現象を捉えることができるというわけだ。コマの運動だけでなく、数理工学的な見方によって流体力学や電磁気学などさまざまな理工学における現象を俯瞰することができる。さらに最新のデータサイエンスの分野でも幾何学が重要になるという。

一方、一見難しい理論数学を学ぶという観点でも物理学との接点は有効だと多羅間は言う。「コマの運動のように『物理学』の具体的な問題を使って抽象的な数学をイメージ豊かに学び、記号や抽象概念の密林のように思える数学の世界を明快な地図を用いたように鮮やかに浮かび上がらせることができるのが、おもしろいところです」。

数学の視点から数理工学的な見方で理工学の多様な分野を見晴るかし、自ら新たな地平を開いていきたいと意気込む。

Profile
多羅間 大輔

多羅間 大輔理工学部 准教授

研究テーマ
可積分系の幾何学研究、可積分系の力学系理論
研究分野
幾何学、解析学基礎
数理科学科について

数理科学科では、現代数学の理論と応用を学びます。数学の普遍性に基づく論理的思考力と発想力を、卒業後も様々な領域で研究者・教員・公務員・技術者等として活かせます。数学コースでは具体的現象に彩られた理論数学を追究し、データサイエンスコースでは確率論・数理ファイナンス等の理論に基づく応用数学を展開させます。

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