厚底シューズはなぜ人気?
最新のテクノロジーで解明する
ランニングフォームと身体への負荷の関係

長野 明紀 教授 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科

Question

陸上競技の長距離トップ選手が多く履いている厚底のシューズ。高いパフォーマンスが期待できるものの、脚部への負荷は大きくなるといいます。一方で、薄底のシューズはアキレス腱への負荷が大きくなります。どちらを選ぶべきなのでしょう?シューズの底厚によって何がどのように違ってくるのでしょう? 現在、ランニングシューズの底の素材・形状とランニング時の負荷の関係について研究している長野明紀先生に、スポーツ健康科学部の施設で行われている調査の内容について聞きました。

ランニングフォームの違いによる負荷の変化をモーションキャプチャとフォースプレートで測定

マラソンや長距離のトップ選手に人気の厚底シューズ。これを履いて走ると、自ずとかかとから地面に接地するフォームになります。かかとに衝撃が強く伝わり、脚部への負荷が大きくなるフォームです。一方、薄底シューズの場合は、かかとから接地すると痛いのでつま先からの接地が促され、つま先立ちの状態になって、アキレス腱への負荷が大きくなります。今は厚底が人気ですが、10年ほど前は薄型が注目を集めていました。どちらも一長一短があり、履く人の筋力や腱の太さによって、また走る目的によっても選ぶべきシューズは変わってくるものだと思います。

私は、ランニングフォームと身体にかかる負荷の関係を研究してきました。最初は、トレッドミルの中の力センサーを使い、地面にかかる力だけを測定していたのですが、テクノロジーの発達によって、今は人の動きそのものも測定できるようになりました。モーションキャプチャと呼ばれる技術です。つま先、かかと、関節などランドマークになる部位にマーカーをつけた人の動きを、モーションキャプチャ専用のハイスピードカメラで撮影すると、マーカーの位置と動きが3次元データとして記録されます。それをフォースプレートと呼ばれる高精度の体重計のようなプレートの上で行えば、動きと、それによってかかる力を同時に測定でき、どんな動きの時に、どんな力がかかっているかがわかるようになりました。

シューズの素材・形状と負荷の関係を解明しより多くの人の健康増進に役立つ研究を志向

今は、ランニングシューズの素材や厚さなどの形状とランニング時の負荷の関係を研究しています。どのような素材・形状のシューズが、実際に走った時にどのような負荷を与えるかを調査するというものです。これまで行ってきた研究に、靴底の素材や厚さなどの要素も加えて、最新のシステムで調べているところです。

厚底にすると選手はどうしても強く接地しようとするので、左右の膝に対する衝撃力が大きくなることが確認できました。それから、多少硬い素材でも厚くすれば伸縮させられること、柔らかくて薄い素材だと力をかけた時につぶれてしまってエネルギーの吸収や放出に貢献してくれないということもわかりました。

先にお話ししたとおり、走る目的によってふさわしいシューズは変わってきます。私自身の基本的な立ち位置は、より多くの人の健康増進に役立つような研究を行うことにあります。足にかかる衝撃を減らしながら快適に走ることができる。今はその辺りをターゲットに、フォームや素材の研究を進めようとしています。

足に優しく、快適に走るには、衝撃を吸収して力学的ストレスを減らせるシューズ、つまり、かかと接地ではなく、つま先もしくは足の真ん中ぐらいで接地することを促すシューズが良いと考えています。ただし衝撃を吸収しすぎると逆にかかと接地を促してしまうので、バランスが難しいところです。厚底シューズは一般の人が履く必要はないでしょう。コストパフォーマンスが悪いことも課題だと考えています。

立命館大学スポーツ健康科学部の設備はすごい!

フォースプレートとモーションキャプチャのシステムを使って、動きと力の両方を一元的にデータ化できるのは非常に恵まれた環境だと思います。しかもフォースプレートは15枚もあり、自由に動いてもらって上でデータをとることができます。
充分な広さが確保されているおかげで、24台ものハイスピードカメラを適切な位置に設置することが可能です。これだけあれば、ゴルフのスイングやピッチングの動作など、限られた方向から見ただけでは隠れる部分ができてしまう動きも、ぐるりと取り囲むように撮影することによって死角をなくすことができます。

スポーツサイエンスの分野に興味がある人へ
立命館大学スポーツ健康科学部にはどんなことにでもチャレンジできる環境が整っている

スポーツ科学の面白さは、体験的にやってきたこと、教科書に書いてあることに、科学的な裏付けがどんどんできていくところにあると思います。アスリートなら、自分が身体を使ってやってきた競技やトレーニングの仕組みを、科学的な言葉で明らかにできる面白さがありますし、その仕組みをさらに良くするためのアイデアも出てくるでしょう。アスリートでない学生も多くいます。例えば、けがをした時などに使うつえがどれだけの力で人をサポートしているのか、つえを持つ手にはどれだけの負担がかかるのかを調べた学生もいました。これもフォースプレートやモーションキャプチャを使った研究です。

スポーツ科学は、今も日々面白い知見が得られつつある本当に面白い分野です。スポーツをしている人も、そうでない人も、ぜひ興味を持ってほしいと思います。本学のスポーツ健康科学部には、広いスペース、充実した最新設備、それを100%使いこなせる人材がそろい、どんなことにでもチャレンジできる環境が整っています。自由に、意欲を持って、やりたいことにまっすぐ取り組んでほしいと思います。

PROFILE

長野 明紀 教授

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了、アリゾナ州立大学学際的博士課程プログラム博士課程修了。アバディーン大学医科学部講師、神戸大学大学院システム情報学研究科准教授などを経て2015年より現職。日本バイオメカニクス学会理事。人間の動作生成メカニズムについて、実験的データ所得とコンピュータシミュレーションを用いた研究を推進している。

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