びわこ・くさつキャンパス

2015.07.10 NEWS

川嵜敏祐上席研究員、豊田英尚教授(薬学部 創薬科学科)らの論文が米国生化学・分子生物学会誌の表紙候補に

 川嵜敏祐上席研究員、豊田英尚教授らが、医薬基盤・健康・栄養研究所、島津製作所などと共同研究した成果を米国生化学・分子生物学会誌The Journal of Biological Chemistry (JBC)に投稿した論文に対し、編集者から雑誌表紙を飾るアートの提出を要請されました。これは、雑誌に掲載される多くの論文の中で、川嵜上席研究員らの論文が際立って優れていると評価されたことを意味しています。

 論文は、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の表面にある糖鎖構造を認識する新しい抗体R-17Fに関するものです。
 従来からiPS細胞のマーカーとして使われている抗体はいくつかありますが、これらは胚性がん細胞を抗原として作成されたもので、がん細胞とiPS細胞を区別できないという問題がありました。そこで川嵜上席研究員らは、ヒトiPS細胞を抗原として抗体を作成し、iPS細胞を認識するが、胚性がん細胞は認識しない抗体を選別しました。そのうちの一つがR-17F抗体です。論文では、R-17F抗体が従来のiPS細胞マーカー抗体とは異なる糖鎖構造に結合すること、単独で未分化のiPS細胞を強く傷害することを報告しました。この性質は、iPS細胞の品質管理とともにがん化のリスクとなっているiPS細胞由来の再生組織に残存する未分化iPS細胞の除去に利用可能なため、安全な再生医療の進展に貢献できるものと期待されます。

 細胞の表面は、細胞膜に存在する膜たんぱく質や細胞膜を構成する脂質に結合している糖鎖に覆われており、糖鎖は細胞の個性を形作っています。川嵜上席研究員らは、R-17Fのエピトープ(抗体が認識する構造)がセラミドという脂質に結合した糖鎖(糖脂質)であることを見出し、その構造を明らかにしました。また、従来のiPS細胞マーカーで、糖脂質を認識することが知られている抗体を蛍光標識してR-17F抗体とともにiPS細胞に結合させて、その分布を調べることで、従来のマーカーとは異なる糖鎖構造を認識することを示しました。再生医療において新たなiPS細胞マーカーとしての利用が考えられます。

 さらにR-17F抗体は、結合した細胞を単独で傷害することを発見。iPS細胞を用いた再生医療は、iPS細胞を作成して、ある組織に分化させて患者さんに移植しますが、再生組織中に残存している未分化細胞が、がん化することが問題になっています。R-17F抗体を再生組織の調製のプロセスで作用させることで、未分化細胞が除去でき、がん化のリスクを大幅に下げることが期待されます。

JBC in press
A cytotoxic antibody recognizing lacto-N-fucopentaose I (LNFP I) on human induced pluripotent stem (hiPS) cells
J. Biol. Chem. jbc.M115.657692. First Published on June 22, 2015,doi:10.1074/jbc.M115.657692

Shogo Matsumoto, Hiromi Nakao, Keiko Kawabe, Motohiro Nonaka, Hidenao Toyoda, Yuto Takishima, Kenji Kawabata, Tomoko Yamaguchi, Miho K. Furue, Takao Taki, Takeshi Okumura, Yuzo Yamazaki, Shuuichi Nakaya, Nobuko Kawasaki, and Toshisuke Kawasaki

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