立命館大学校友会報 りつめい - Alumni Magazine "RITSUMEI"

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大島 陽教授(2001年 政策科学部卒業)

松葉 涼子教授(2008年 文学研究科修了)

桐村 喬教授(2010年 文学研究科修了)

デザイン・アート学部教員による特別鼎談

世界を変える価値創造に
必要な「美的感性」を磨く

今回の巻頭特集では、立命館大学の校友で、デザイン・アート学部の教員に就任した3名が、学部の魅力や人材育成について語り合った。

大学で研究と出会い、夢中で続けてきた

大学での思い出、研究との出会いを教えてください。

大島

私は政策科学部4期生として入学しました。同学部は当時から文理融合で、多様な学問分野を横断的に学べるところが魅力でした。印象深かったのは、当時では珍しくコンピューターリテラシーの授業があったことです。私も入学と同時にMacのコンピューターを買い、画像編集のソフトウエアを手に入れ、独学でデザインを始めました。それからはコンピューターグラフィック(CG)の作品を作ってデザイン雑誌に応募したり、文化祭やイベントのポスターを作ったり、映像を制作してクラブでVJしたり、デザインにのめり込んでいきました。正直に言うと、大学の勉強よりも、学外での自称アクティブラーニングの方が熱心でしたね。

もう一つ進路を決める契機になったのが、交換留学で1年間、カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)に通ったことです。留学中、バンクーバーやニューヨークなどの都市を回ってさまざまな建築を見て、心を惹かれました。そこで、「デザインをしっかり学ぼう」と決意。大学卒業後、米国にある南カリフォルニア建築大学(SCI-Arc)の大学院へ進学しました。その後は国内外の大学で空間デザインやプロダクトデザインについて教壇に立つなど、研究と教育、さらに自らの創作活動を通じてデザインと向き合ってきました。趣味で始めたデザインが、どんどん楽しくなって、今日までずっと夢中で続けています。

松葉

大学時代は、文学部での学びも面白かったけれど、一番頑張ったのは、応援団吹奏楽部での活動です。私はフレンチホルンを担当。「体育会系文化部」と言われるほど熱心なクラブで、日々頑張って練習に励んでいました。

研究との出会いは、1回生の時、現在デザイン・アート学部の学部長を務めている赤間亮先生の研究入門(1回生ゼミ)を受けたのがきっかけです。先生に誘っていただき、立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)が収蔵する近世の歌舞伎の資料の整理を手伝い、文化資源のデジタルアーカイブに関心を持ちました。膨大な資料を無差別に見られるのが、アーカイブの面白いところです。データベースで資料を検索すると、自分の限られた知識に基づいた検索ワードからしか資料を抽出することができませんが、デジタルアーカイブに携わると、あらゆる資料に目を通し、その中で思いもよらない研究課題を見いだすことができます。それが面白くて研究の道へ。卒業後は英国・米国の博物館や研究所で、デジタルアーカイブと研究に取り組んできました。

桐村

私は幼い頃から地図が好きで、地理学を学びたくて、地理学科のある立命館大学の文学部に進学しました。私も松葉先生と同じく1回生の時の授業で、地理学が専門の矢野桂司先生にアルバイトに誘われたことが、研究、そして矢野先生とのご縁の始まりでした。以来、幾つも共同研究をするなど、矢野先生との良い関係は今も続いています。課外では、地理学研究会というサークルに所属。皆で決めた地域に赴き、合宿しながら、地域を調査したことが思い出に残っています。コンピューターが好きだったこともあり、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を用いた研究に関心を持ち、近代から現代まで、都市の居住者や景観がどのように変化してきたのか、歴史的な変遷を明らかにする研究を進めてきました。3Dデータやビッグデータを活用し、都市景観の3D可視化にも取り組んでいます。

多様な分野を横断して学べるのが
デザイン・アート学部の魅力

2026年4月、デザイン・アート学部が開設されました。本学部の魅力をお聞かせください。

大島

今、デザインの世界は、史上最大の転換点にあると考えています。AIの出現によって、デザインのスキルがなくても誰もが容易にデザインできる、そんな時代が到来しようとしています。そうした歴史的転換点に、デザイン・アートを学ぶ学部で何ができるのか、まずそこが面白いと思いました。

松葉

大島先生がおっしゃるように、AIによって、私たちを取り巻く世界は、今、大きく変わろうとしています。例えば車で自動運転が可能になると、人の空間認識も変わるし、運転席から見える景色も一変するでしょう。これからデザイン・アート学部で学ぶ学生たちが見る世界は、私たちとは違ったものになる。複数の見方をもった人間が集まる場になることを期待しています。

桐村

地理学の研究分野でも、技術革新がそれまでの常識を覆す経験を幾度となくしてきました。私が学生の頃は、製図実習では、皆、手描きで地図を作成したこともありますが、ソフトウエアを使えば、非常に美しい地図をあっという間に作成できます。AIについても、自然の流れとして受け入れ、どのように活用していくかを考えていく必要があると思っています。

松葉

しかしデジタル技術であらゆるものを見られるようになったからこそ、現実の「手触り感」を感じ取る力が重要になるとも思っています。データベースを検索すれば、美術品をデジタル画像で見ることができますが、実物を見たことがなければ、デジタル画像からその作品のもつテクスチャーを感じ取ることは難しいと思います。

大島

確かにデジタル化が進むと、リアリティーが失われていく感覚がありますね。例えばガウディは世界で有名な建築家の一人で、彼の作品の写真は、あらゆるところに溢れています。しかし実際に現地に行って建物を前にすると、奥行きや鉄骨のマテリアル感、空間の空気やスケール感など、写真には写らないことがたくさん分かります。アートは、そうした五感で感じるもの。若い人には、デジタルにあらがうのではなく、それを活用しながら、「全身で味わう感動」も知ってほしいと思っています。

桐村

その通りですね。一方で、例えば入国の難しい外国や宇宙など、簡単には行けないところにあるモノを見たり、研究したりできるのは、デジタル技術があるからこそです。またフィールドワークなどでリアルから学ぶことにも課題を感じることがあります。例えば京都の街へ出て、日本の文化に触れるにしても、名所などの限られた場所を巡るだけでは、表層的な学びしか得ることができません。本学部は「京都のまち全体がラーニングプレイス」をコンセプトにしていることもあり、今後、多様な地域に出て、奥深くまで学ぶフィールドワークを実施したいと考えています。

大島

本学部のもう一つの魅力は、専門の異なる多様な教員が集まっていることです。例えばリサーチ手法を学ぶ授業でも、建築では、実際に測量で建物を測るし、アートでは、リサーチの歴史から学ぶなど、専門分野によって多様なアプローチがあります。そうした分野を超えた学びを通して、新しい視点を得ることができます。教員同士、あるいは学生と学び合う中で、どのような価値を生み出せるのか、非常に楽しみにしています。

松葉

英国の大学で教えていた時、多様な分野の人がそれぞれの視点で議論することが、いかに有意義かを実感しました。本学部で、デザイン・アートの文脈で分野を超えた学びを経験した学生が、世界に対してどのような視点を獲得していくのか、楽しみです。

桐村

デザイン・アート学部がある衣笠キャンパスも、文系キャンパスという印象でしたが、これを機会に文理が混ざり合い、複合的なキャンパスに変わっていくでしょう。デザイン・アート学部はその象徴的な存在になると期待しています。

「美的感性」を豊かに育む教育を実践

その他に学部の強みを教えてください。

松葉

デザイン・アート学部の強みは、「美的感性」を磨くことを教育の中心に据えていることです。世界を変える新しい価値を創造するためには、物事を繊細に感じる力が不可欠です。例えば和紙の原料である楮には、日本産・中国産などが使われています。素材の違いを知らなければ、その違いを見分けることはできません。素材の違いをわかるのも「感性」の一つで、それらを磨くことで、そこから新しい価値を創造することができるのではないかと思います。本学部では、そうした「感性」を豊かに育む教育を実践していきたいと思っています。

大島

美的感覚を重視する点は、私も非常に面白いと思っています。「美しい」という感覚は、人それぞれです。そうした答えのない感覚、個々に異なる感覚を共有し、「自分にとって美しいとはこういうものだ」と、皆でディスカッションできるオープンな場をつくりたいと思っています。

クリエイティブな感性は、社会にどのようなインパクトを与えられるでしょうか。

大島

クリエイティブな感性は、デザインやアートを創る人はもちろんですが、デザインと関わりのない人にも幅広く適用できるものだと思っています。特にデザインは、他分野、非デザイン分野と相性が良いのが特徴です。私自身、理工学部の岡田志麻先生との共同研究で、身に着けられるデバイスを開発するなど、他分野の研究者と連携することも少なくありません。専門的な知識や技術を誰にでも理解できるものに変換できるのが、デザインの魅力です。立命館大学の中で、さらには広く社会において、政策やテクノロジー、企業活動など、幅広い分野をつなぐブリッジの役割を果たすという点でも、デザインやアート、クリエイティブな感性がもたらすインパクトは大きいと思っています。

桐村

AIの普及によって、専門的な知識やスキルがなくても、多様な分野に参入しやすくなっています。デザイン・アート学部で磨いた感性を生かせば、さまざまな分野で活躍できると思います。

松葉

同感です。何かを創り出すだけでなく、何かを見抜くにも、クリエイティブな感性が求められます。そうした感性を持った人が活躍できる場所は、幅広い分野にあると思います。今後本学部で、クリエイティブな感性を持って、社会のあらゆる場所で人と人とのつながりを構築できる人材を育てたいと考えています。

大島

私が米国の大学院でデザインを学んでいた時、衝撃を受けたのが、「ルールを破れ」と教えられたことです。既存のルールや枠組みに疑いを持たず、思考停止のまま従っていては、新しいものを生み出すことはできません。既存のルールを打ち破って新しい価値を生み出す。それこそがクリエイティブな行為といえます。教員として、それができる人材を「本気で」育てていきたいと思っています。

立命館はファミリー
やりたいことを突き詰め、
その経験をいつか還元してほしい

この春、立命館大学を卒業し、新社会人になった校友の皆さんにメッセージをお願いします。

大島

デザインやアートの考え方、クリエイティブな感性、物事を多角的に見る力や批判的思考力は、さまざまな局面で生かすことができます。学部と同時に開設した大学院のデザイン・アート学研究科では、オンラインを活用し、1年で修士の学位を取得できる社会人向けのプログラムも開講しています。働きながらデザイン・アート学研究科で学ぶのも、良いのではないかと思います。

桐村

大学で学んだことが、社会に出てすぐに役立つとは限りません。経験を積み、プロジェクトのリーダーになった時、あるいは自ら主体的に仕事に取り組む立場になった時、突然、過去に学んだり、研究した経験やそこで身に付いた力が生きる時が来ます。だから「何をすればいいのか」と悩まず、自然に前に進んでいってほしい。その過程で、「大学で学び直したい」と思うことが出てくるかもしれません。ぜひ若いうちから大学でのリスキリングにも積極的に挑戦してほしいと思っています。

松葉

新校友の皆さんに伝えたいのは、ぼーっとする時間を作ってもらえたら、ということです。まずは「自分を深める時間」を大切にしてほしい。自分は何が得意で、何に違和感を覚えるのか、自分自身の感覚・感性を鋭敏にするための時間を大事にして欲しいなと思います。

大島

立命館は、校友も含めて一つのファミリーのような気がしています。立命館でのつながりは、一生ものです。でも新校友の皆さんは、そんなことは考えず、がむしゃらに自分のやりたいことを突き詰め、楽しく人生を歩んでほしい。そして将来、もし立命館にその経験を還元してくださる機会があれば、うれしいです。

大島 陽 教授 
専門分野:デジタルデザイン表現

東京都出身。2001年、政策科学部を卒業後、南カリフォルニア建築大学(SCI-Arc)の大学院で建築学修士を取得。建築デザイナーとして「4Way House」などの作品を手掛ける一方、Art Center College of Design、多摩美術大学でインダストリアルデザインの教育に従事。2025年、スポーツ健康科学部教授に就任。2026年4月から現職。

松葉 涼子 教授 
専門分野:美術・工芸・造形文化

愛知県出身。2002年、文学部日本文学科を卒業後、同大学院に進み、2008年、博士課程後期課程を修了、博士(文学)を取得。その後、立命館大学衣笠総合研究機構、大英博物館客員研究員、英国セインズベリー日本藝術研究所などを経て、2025年、立命館大学文学部教授に就任。2026年4月から現職。

桐村 喬 教授 
専門分野:地理情報科学、歴史GIS、3D GIS

大阪府出身。2005年、文学部地理学科を卒業後、同大学院へ進学し、2010年、博士課程後期課程を修了、博士(文学)を取得。その後、立命館大学衣笠総合研究機構に勤務し、東京大学 空間情報科学研究センター、皇學館大学を経て、2023年、京都産業大学文化学部の准教授に就任。2026年4月から現職。

記事掲載号

No.299|2026 APRIL
  • 299号掲載記事

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