3.11から10年目を見据えた復興支援のこれから 3.11から10年目を見据えた復興支援のこれから

去る2020年2月11日(火・祝)、立命館災害復興支援室が主催し「3.11追悼企画 いのちのつどい」を開催しました。

この「いのちのつどい」は、立命館の関係者による活動報告やシンポジウムを実施するなどの内容で2012年度から毎年開催しているもので、今年で8回目の開催となります。今回は「3.11震災から10年目を見据えた復興支援の在り方について」をテーマに、3.11以降に様々な形で復興支援に携わってきた本学教員によるシンポジウム・パネルディスカッションと、当日の参加者全員による「災害からの復興と私たちにできることを考える」と題したワークショップを開催。約50名の参加者とともに災害からの復興について考える場を設けました。

当日の様子と、当日参加した学生の声をご紹介します。

シンポジウム・パネルディスカッション
「3.11震災から10年目を見据えた復興支援の在り方について」

災害復興支援室副室長である丹波史紀産業社会学部准教授は、前任校である福島大学での経験や研究活動とともに「理解する、備える、次の世代を育てる」ことの重要性について触れ、大学が被災地域への支援を通じて果たすことのできる役割のひとつとして、研究者や学生をはじめとした多様な担い手と地域とを繋ぐ役割を担うことや、立命館と福島県庁が連携し取り組む人材育成を目的としたプログラム「チャレンジ・ふくしま塾」の取り組みについて語りました。

大谷哲弘産業社会学部教授からは、「岩手県における東日本大震災後の児童生徒への心理的支援の原則と取組の過程」をテーマとして、岩手県沿岸部の学校でのスクールカウンセラーとしての経験から、震災当初の支援状況や、「心のサポートチーム」を教育委員会に設置した取り組みに触れ、次の災害を見据えた支援の準備の必要性について述べました。

村本邦子人間科学研究科教授からは、「被災と復興の証人witness 」 になるとはどういうことだったか?―「東日本・家族応援プロジェクト」の活動を通して―をテーマに、2011年から10年間のプロジェクトとしてスタートした「日本・家族応援プロジェクト」の取り組みにおいて、大学院生と教員が現地の支援機関とどのように連携を行ってきたのか紹介し、9年目となる活動で見えてきた課題や、被災と復興の「証人」としての取り組みで見いだされた視点や今後の課題について意見を述べました。

山口洋典共通教育推進機構准教授は、[復興支援の「ために」から地域振興を「ともに」~被災者・未災者交歓の視点~]のテーマで、立命館大学の正課外プログラムの展開として神戸、新潟(中越)、熊本、岩手(大船渡)への学生派遣で重視してきた地域との関わりのありかたへの考察や、各地で展開した派遣プログラムの総括から地域の外から支援に入る上での心構えのありかたについての示唆を述べました。

その後のパネルディスカッションではシンポジウムでの各々の話を受けて、大学が地域の中で果たす役割や、支援者を支援する重要性などについて意見交換を行いました。

各教員からのシンポジウム報告・パネルディスカッションの詳細については、今後順次当HPでご紹介させていただく予定です。



左:丹波史紀准教授、右:大谷哲弘教授
左:村本邦子教授、右:山口洋典准教授

ワークショップ
「災害からの復興と私たちにできることを考える」

山口洋典准教授がファシリテーターを担当され、当日参加者のなかから意見交換を行いたいテーマをもつ人が提案者となり、その中から参加者がそれぞれ話したいと感じるテーマのもとに集い語り合うワークショップ「オープンスペーステクノロジー」での意見交換を実施しました。



左:テーマ発表の様子、右:意見交換の様子

■提案されたおもなテーマ
「震災への向き合い方」
「災害ボランティアにおける支援者・被支援者の良好な関係構築について」
「避難所の在り方」 等

意見交換の内容は参加者全員で共有され、テーマごとに語られた内容や参加者の「気づき」が紹介されました。

■語られたテーマと、紹介された気づき
・復興支援に関するプロジェクトに参加し現地に行くだけでなく、自身が現地で見て、聞いて、感じた経験を広めていくことの重要性について、もっと共有して広げていくことが大事なのではと感じた。そのようなことに取り組むプロジェクトを立ち上げることを考えたい。

・被災地の現状がなかなか伝わっていないのではという課題について。単にメディアが伝えていない、風化してきている、行けばわかるのに、とかいう話でない理由、状況(立場の違いによって一概に言えない)にも着目しないといけないのでは。

・シンポジウムでの山口先生のお話にあった、押しつけの善意はある種の暴力にもなりうるという言葉から、あの日のことについていまも語りたくない人やこれからも語らないだろう人の存在、もう忘れたいという人の思いを尊重するという視点も大切にしたいと感じた。

・災害後の避難所の在り方について、疑問や怒りに近い思いをもっていた。意見交換することで、避難所に滞在した時期、あるいは関わった時期や、支援者や被災者、被災状況の違いなど立場の違いによりさまざまな考えや意見の違い、そこからくる課題広がっていることを感じることができた。

・被災地に行けないが自分も何かやりたいと思っている人がたくさんいることに着目していくことがヒントになるかもしれない。被災地になかなか行けない人への「関西でできる支援」のアイデア、選択肢を広げたい。

・災害のあった地域や人と関わるとき、支援者、被災者という枠組みにとらわれることで見落とすことがあるかもしれないという視点を忘れないでいたい。目の前の人に向き合うこと、そして多くの人を巻き込んで一緒に復興支援を続けていくことの重要性をあらためて感じた。

閉会挨拶
建山和由災害復興支援室長より

建山和由災害復興支援室長

東日本大震災後も熊本を中心とする九州の地震、中国地方の水害、大阪北摂地域の地震、昨年の台風など、日本中で災害が起こっています。東日本大震災から9年が経ち、人々の災害に対する認識が薄れていく中で、10年を迎えるにあたり、今日のシンポジウムを通じて、我々ができること、これからやるべきことが明確になったとともに、規模は小さくとも、課題意識をもって現地に行って活動に携わっている教職員がいることをこれからも大事にしていきたいと再認識しました。

当日参加者の声

田中巴実さん

立命館大学 生命科学部 4回生 田中巴実さん

*岩手県大船渡市での活動の他、「チャレンジ・ふくしま塾。」2017年度、2018年度に参加

 4年間を振り返ると、復興支援活動に携わった経験から得た学びや人の繋がりは、現在の自分の力になっていると実感しています。復興支援や防災は他人事ではなく、これまでも自ら重要性を発信してきましたが、課題感や興味を持つ人の繋がりでしか発信できていないと痛感していました。しかし、今日のワークショップの中で「面白くない時期を乗り超えるかどうか」が人がモノ・コトにはまるかどうかのポイントであるという意見を聞き、これまで自分が持てていなかった新たなアプローチだと実感しました。

 また、4年間の経験は将来進路を考える際に、これからどのように生きていきたいのかを考える指針になりました。私は卒業後、地元で公務員として働きます。震災が起こった際、その地域住民同士の助け合いが力になります。これまでの経験を活かして、地域を巻き込みながら住民が危機管理を意識する取り組みを考えていきたいと考えています。そして、地域住民の意識によって、地域の力を強くしていきたいと考えています。


松尾遼太郎さん

立命館大学 法学部 1回生 松尾遼太郎さん

*「チャレンジ・ふくしま塾。」2019年度塾生

 今年、初めて「チャレンジ・ふくしま塾。」に参加しました。被災地は日本国内の課題先進地域と考え、実際に被災地に赴き、課題を目の当たりにすることで、自分に何ができるのか考えたいと思い、以前より被災地に関して報道される情報が減ってきている中、福島の現状を知りたいと思ったことが参加の理由です。実際に行ってみると、地域によって状況もそこに住む人々が抱える課題も異なり、衝撃を受けました。しかし、現地の人々と関わる中で、厳しい現実だけでなく、人と人との繋がりの中で楽しんでいる人が多いことにも気づきました。
 今日のワークショップでは、復興支援について様々な意見を持った方々と意見交換ができ、今後の復興支援の在り方について考えを深めることができました。2020年は「チャレンジ・ふくしま塾。」だけでなく、復興支援に関わる様々な活動にも参加することで、地域や企業の人々と共に、課題解決していきたいと考えています。


会場の様子
会場の様子
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