座談会

専門性を活かして活躍するために
― 国家公務員・民間企業で活躍されている法学研究科の修了生が答えます ―

2023年12月8日(zoom開催)

参加者紹介

参加者の経歴は座談会開催当時のものです。

  • 司会渡辺 千原 教授
    立命館大学法学部
    法学研究科

    専門は法社会学。

  • 舩見 菜々子 さん
    2021年3月修了

    ダイキン工業株式会社

  • 関原 裕真 さん
    2023年3月修了

    三菱自動車工業株式会社

  • 北出 裕哉 さん
    2023年3月修了

    法務省民事局

【仕事内容と大学院での学び】
専門性をつきつめて自分の強みにしようと考え、進学しました

渡辺教授

今日はよろしくお願いします。大学院や基礎演習などでも関わりのあった皆さんのお話を楽しみにしています。
3人とも専門的な仕事に就いておられますね。まずは、今の仕事と、大学院でどんなことに取り組んでいたかなど、簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。

舩見さん

ダイキン工業株式会社法務・コンプライアンス・知財センター法務グループに所属しています。当センターには、法務グループのほかに、コンプライアンス対応を担う企業倫理リスクマネジメントグループ、知的財産グループがあり、3つのグループを横断する仕事も多くあります。メイン業務は契約の作成審査ですが、上司や先輩の補佐としてさまざまな業務を経験中です。当社は空調事業のほかにもさまざまな事業を手がけており、幅広い事業部の方と関わる機会の多い部門だと思います。
大学院では石橋秀起先生の指導で民法を専攻していました。学部2年生の時に「社会に活きる法」という授業で企業法務という仕事を知り、興味を持ち、企業法務で働くことを目標に大学院に進学しました。学部生の時は体育会剣道部に所属していたこともあって、学業に対して少し消化不良だったことも進学へのきっかけになったと思います。
大学院ではそれまでできなかった企業法務でのインターンや、アメリカのロースクールへの短期留学など、座学以外にも積極的な活動をしました。修士論文のテーマは「自動運転に関する損害賠償責任」です。

関原さん

三菱自動車工業株式会社法務部で働いています。三菱グループの中には事業部ごとに法務担当者がいる会社もありますが、当社は単一事業なので、法務部の人数も20人から25人くらい。あまり多くありません。
当社は研修期間が長く、9月下旬まで会社の歴史やビジネスマナーを学んだり、現場を知るために工場やディーラーで働いたりしていたので、まだあまり深く業務に深く関わっていないのですが、今は、例えば合弁会社設立にあたっての契約書のレビューなどを行っています。
大学院では会社法を専攻し、清水円香先生にご指導いただきました。修士論文は、非公開会社をテーマに、企業再編の場面における対象会社株主の保護について執筆しました。
大学院への進学には、ちょっとネガティブな要素もありました。大学4回生の時にコロナが流行し、就職活動で自分の納得した結果が得られなかったので、中途半端に就職するよりは法学部の専門性をつきつめて自分の強みとして活かそうと考えたのが進学の理由です。進学後は研究と並行して簿記の勉強も行い、日商簿記2級を取得しました。

北出さん

法務省民事局の北出です。関原君とは大学院で同期でした。民事局は、法学部でもおなじみの民法、会社法、民事訴訟法などを所管するところです。私はその中で商事課という部署で、会社法や商業登記法に関連する仕事をしています。具体的には、まずは商事課の総括的な、言い換えれば雑多な業務。もう一つは、商業法人登記に関する業務。法務省の地方機関の一つである法務局への登記申請に関して、疑義があったり、法務局では対応しきれない難しい案件があったりした場合、法務省に上がってくることがあるので、それに対して処理方法などを示す仕事です。また、個人情報を取り扱う事業者への開示請求への対応、つまり開示するかどうかの最初の判断もしています。
ちょっと宣伝みたいな話ですが、法務省には明治時代に建てられた歴史ある赤れんがの建物があり、私はそこで働いています。皆さん一度検索してみてください。
関原くんと違って入省式の日からがっつり働き、1年目からやりがいのある仕事ができる職場です。

渡辺教授

やりがいがありすぎな感じですか?

北出さん

ありすぎですね(笑)
大学院に進んだのは、学部時代に法的な課題について考えたり議論したりすることが楽しいと感じ、より高い専門性を身につけたいと考えたからです。大学院では辺先生のもとで法社会学を研究対象にしていました。修士論文は、家族法や戸籍関係の法律から、司法制度や司法の役割について書きました。

渡辺教授

皆さん、仕事以外に今頑張っていることはありますか?

舩見さん

マラソンですね。今年初めてフルマラソンを完走できました。

関原さん

元々ジムでトレーニングすることが好きなのですが、最近ヨガも始めました。デスクワークが多いので身体をほぐしたくて。今住んでいる会社の寮の近くにジムがあるので通いやすいです。

北出さん

民事局の同期が5人いるのですが、めちゃくちゃ仲が良くて、飲み会や旅行で一緒に余暇を過ごしています。

【大学院時代の思い出】
アメリカのロースクールへの留学が印象に残っています

渡辺教授

大学院時代に取り組んだことや思い出話をいただけますか?

舩見さん

先ほどもお話ししたアメリカのロースクールへの留学が印象に残っています。「ワシントン・セミナー」というロースクールのプログラムだったのですが、法学研究科ではフレキシブルに授業が受けられたので、興味あるロースクールの授業もいくつかとっていたんです。

渡辺教授

「ワシントン・セミナー」は、ロースクールの学生や弁護士の先生方と一緒に、ワシントンD.Cのアメリカン大学ロースクールに短期留学し、連邦最高裁判所や現地の大規模弁護士事務所などで法曹実務の現場を体験できるプログラムです。将来の院生にもぜひ行ってもらいたいと思いますね。
どんな点が印象深かったですか?

舩見さん

日本にもアメリカの法制度が取り入れられている部分が多くあると思いますが、日米では国の大きさが違い、基本的な文化や歴史的背景も違います。現地に行ったからこそ、合衆国憲法の規定の意義を理解でき、すごく勉強になりました。

渡辺教授

関原さんはどうですか?同期が7人しかいない学年だったから大変だったんじゃないかと思うのですが。

関原さん

一番印象に残っているのは、1回生前期の独禁法の授業で、学生が私と北出くんの2人だけだったことです。毎回どちらかが資料を作って発表し、議論していました。2週間に1回担当が回ってくるし、ほかの授業でも同期が少ない分、資料作成に追われて大変でした。
学部時代は、先生一人に学生が多数でインプット重視の授業でしたが、大学院の授業は少人数なので、ディスカッションなどによるアウトプットの機会がすごく増え、知識面での理解も進みましたし、発言に少しでも矛盾があると先生からすぐ指摘されるので、すごく鍛えられたと思います。

渡辺教授

7人で本当によく頑張りましたね。

北出さん

少人数ではありましたが、大学院専用施設の究論館に行けば必ず誰かがいて、一緒に協力しながら勉強や研究ができることがすごく楽しかったし、私にとってはそれが一番の思い出です。365日のうち355日は大学に行っていたと思います。
留学生も多くて、自分とは違う角度からの意見を聞く機会があったのも良かったですね。

【大学院進学の優位性】
分かりやすく説得力のある「話す力」が仕事に活きています

渡辺教授

3人は今、とても専門性の高い仕事をされていますが、大学院で学んだことが仕事の中でどのように活きていると思われますか?

舩見さん

学部の時には六法だけで手一杯だったのですが、大学院では、英米法など民間企業を意識した授業をとることもできたので、その知識を仕事でも活かすことができています。
でも一番活きているのは「話す力」だと思います。私の仕事では、専門的な知識をしっかり持った上で、他部門の人に分かりやすく説得力のある話をする必要があるのですが、その力は大学院で身につけたものです。
先ほどもお話に出ていたように、大学院の授業は、少人数で学生が中心になって進めていくので、発表時の準備が大切です。知識面でも、話し方も、準備に不足があれば授業全体のクオリティを下げてしまいます。その点ですごく努力した結果、身につけたものが、今も仕事で活きているのだと思います。

渡辺教授

なるほど!「書く力」がついたという話は聞けるかなと想像していたので、「話す力」には少し驚きました。関原さんはいかがですか。

関原さん

純粋に知識面ですね。私の専攻は会社法、特に企業再編や経営判断に関わるものだったので、担当する仕事の中でも、学んできた条文や単語が出てくると理解がスムーズに進みます。
一方、大学や大学院で学んでこなかった、下請法、不正競争防止法、景品表示法などのニッチな法律も結構使うなと感じています。

渡辺教授

大学院進学が就職活動に役立った面はありますか?

関原さん

当社の場合、法務部に入るためには、総合職採用ではなく、職種別採用枠で面接を受けることになっていました。そこで当然聞かれるのが、法務を志望する理由です。その際に、大学院まで行って法律を勉強したというバックグラウンドはやっぱり説得力の一つになりますし、同期で法務に配属されたもう1人も大学院修了者でした。大学院での学びは必須ではないものの、就職活動での説得力にはつながるのかなと思いました。

渡辺教授

関原さんは学部時代にも就活をされたわけですが、学部時代の就活と大学院での就活で何か違いはありましたか?

関原さん

私の場合、学部時代は就職活動にあまり熱心ではなかったと思います。それで大学院に進学したのですが、文系の大学院は就活に不利という情報も聞いていたので、資格の勉強やインターンシップなどには積極的に取り組みました。

渡辺教授

舩見さんは就活で大学院進学の優位性を感じることはありましたか?

舩見さん

私も総合職ではなく法務職としての内定でした。専門職を目指す上では「なぜ法務職で働きたいか」という意欲の部分を厳しく見極められるので、大学院に進学したこと自体に説得性があると思います。面接で法的な知識をたずねられることはありませんでしたが、学部生、院生にかかわらず、研究内容は聞かれるでしょう。その時、修士論文に取り組んでいる院生は、学部生よりも深い話ができるので、そこが一つのアピールポイントになるのかなと思いました。

渡辺教授

北出さんは公務員なので、少し違うかもしれませんね。

北出さん

業務の中で大学院での学びが活かされる場面は多いと思います。直接的なものは、法律の知識です。上司の仕事を見ているとやはり立法的な業務があるので、大学院でしっかり法律を学んだことが生かされるように思います。間接的なものとしては修士論文を書いた経験です。私は文章を書くのが下手で、思ったことが全然書けなかったのですが、修士論文を書いて提出するという一通りのことを経験したことによって、ある程度文章力は上がったと思います。基本的に公務員は公文書を作る仕事が多いので、その経験はすごく活きていると思います。
公務員を志望する人にとって、大学院、中でも法学研究科を修了するメリットは大きいと思います。採用の段階でもそうですし、配属についても、大学院修了者は、法律を扱うところに配属されている印象です。大学院、中でも法学研究科出身であることは評価されるのではないかと思っています。

渡辺教授

法務省にはロースクール出身の人もおられると思いますが、どちらが有利ということはありますか?

北出さん

ロースクール出身者は、法解釈は得意だと思います。しかし公務員の仕事は、立法的な業務もあるので、社会に存在する問題に対処するために法律を考える過程では、法学研究科で何かに疑問を持って論文を書いた経験を持つ人の方が、公務員の仕事には合っているのではないかと個人的には思います。

渡辺教授

そう言われると嬉しいですね。確かにロースクールは、一つの事例を、最高裁の判例に従って、いかに解釈して解決するかが重要ですが、論文を書く行為は、より批判的に「もっとこうした方がいいんじゃないか」を考えるもの。法を作る仕事にはその方が近いのではという意見ですね。いい話を聞かせていただきました。

【専門性の高い仕事をする面白さ】
専門性があると、物事の背景を考えながら仕事ができるから楽しい

渡辺教授

高い専門性を持って社会で活躍することの面白さについてあらためてお聞かせいただけますか?

舩見さん

法務の仕事は、明確な答えがない中でベストプラクティスを探していくことがとても重要です。それはまさに私たちが法学研究科でやってきたことではないでしょうか。明確な答えがなく、むしろ問題提起から自分でやらないといけない点が、学部での学びとは違うところですよね。情報が不明確な中、自分自身で問題を発見し、ほかの人の意見も聞きながらベストプラクティス探す。それが法務の仕事の難しさであり、面白さなのだと思います。
こういう条文があるから、ここにリスクがありますよと指摘するだけならすごく簡単です。でもそれではビジネスが止まってしまうので、リスクとビジネスのバランスを取りながら、ベストプラクティスを探していくのが法務の仕事の面白さですし、それを面白いと感じられるのは法学研究科で学んだからだと思います。

渡辺教授

しんどいと感じるのはどんな時ですか?

舩見さん

そうですね…考えているんですけど、今はないですね。職場環境が良いので、若手がしんどくならないように上の方々が頑張ってくれている面もあるのかなと思います。もっと上に行ったら、もしかしたらしんどいなっていう場面があるのかもしれないですね。

渡辺教授

考えてもしんどいところが出てこないのはすごいですね。
関原さんは本格的な仕事をまだ始めたばかりだと思いますが、どうですか?

関原さん

今はしんどいですね。でもやめたいと思ったことはありません。それは自分にとって興味のある分野を仕事にできているからだと思います。
法務は、基本的にほかの部署から頼られる仕事です。契約書のレビューもそうですし、社内社外で発生しうる法律的事象に対して、どうしたらいいですか?っていうアドバイスを求められる立ち位置にいるので、そういう意味では社内でも一目置かれるような存在なのかなと思います。いろいろな部署と関わることが多いのも魅力です。海外営業、国内営業、経理、商品戦略、仕事の幅が広く、ダイナミックさもあるので、すごくやりがいもあって楽しいです。

渡辺教授

数ある企業の中で、今の勤務先を選ばれた理由はありますか?

関原さん

純粋に法務で働きたかったというのが大きな理由です。ほかに2社からも内定をいただいていたのですが、どちらも総合職採用だったんですね。面接の段階から法務で働きたいという希望は人事の方にも伝えていたのですが、確実に配属されるかどうかはわかりませんでした。その点、当社は内定の時点で法務での勤務が確定していたので選んだというわけです。

渡辺教授

舩見さんも確かそうでしたよね。

舩見さん

はい。法務採用が決まっていました。私の場合は、法務でほかにも内定をいただいていたのですが、面接官の方とお話ししていて、この方と働きたいなと感じたことから当社を選びました。
入社前は、法務の仕事ならどの企業でも一緒かなと思っていました。でも仕事をしてみてわかったのは、会社によって一つの仕事に注力させる法務もあれば、さまざまな業務を経験させる法務もあるということです。法務を志望する方は、OB訪問などをしながら、自分の働きたい会社を選ぶのがいいかなと思いますね。

渡辺教授

ひとくちに法務と言っても、企業の中の位置づけや仕事内容はそれぞれです。学部生で法務を志望する方も、舩見さんがおっしゃる通り、企業ごとの特徴を調べてもらう必要があると思いますね。
北出さんは、高い専門性を持って活躍できることのやりがいについてどう感じていますか?

北出さん

専門性があると、物事の背景を考えながら仕事ができるから楽しいんじゃないかなと思います。例えば、開示請求申請への対応業務でも、ただ言われた情報を出すだけの仕事だと思うと多分楽しくないでしょう。でも法律の知識があれば、行政機関は選挙で選ばれた人が働いてるわけじゃないので民主的な正当性がない。だから開示請求という制度があって、情報公開法上、基本的には開示しないといけない規定になっているということまで考えながら業務を行うことになると思うんですよ。そうなれば、いわゆる雑多な業務でも、知識があることによって見えてくる世界が違い、楽しく感じられるのではないかと思います。
高い専門性を持って活躍する面白さとはすこし違う話かもしれませんが、どんな業務でも楽しくできる背景にはそういう要因があるのではないでしょうか。いずれにせよ仕事をするうえで専門性があるのはいいことだと思います。

渡辺教授

今の言葉にはとても感銘を受けました。なるほど「専門性がある」と言うと、武器になるという意味合いでとらえがちですが、物事を、どういう意味がある事柄なのか、どうしてこの法はこうなってるのかなど、背景まで含めて理解した上で、仕事に活かすことができる、それこそが真の専門性だと。素晴らしい言葉をいただきました。
皆さん、今日は本当にありがとうございました。