筒井 淳也教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2013年

筒井 淳也教授 教員

研究テーマ
結婚、女性労働、ワーク・ライフ・バランスといったテーマに主に定量的データを用いて取り組んでいる
教員詳細

データの海でもがくように研究する日々

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

職業研究者の場合、研究テーマというのはある程度社会的要請から決まるところがあります。今日本という社会が抱える問題のうち、少子化、未婚化、ワーク・ライフ・バランスというのは大きな課題となっていて、この問題に一定の見通しを持っておきたいと考えたからです。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

私はもともと大学院生のときまでは哲学や社会学の学説(ハイデガー、ウェーバー、ギデンズなどです)を読み解くことを自分の研究としていたのですが、とあるタイミングで方向転換して実証研究の世界に飛び込んで行きました。それからはデータの海のなかでもがくように研究する日々が始まったのですが、むしろ実感したのは、社会学では学説研究と実証研究とで、コミュニティに属する研究者やその考え方が大きく異なることでした。違う世界に足を踏み入れ、それに慣れるのが大変でした。

いまではすっかり「実証の人」なので、転換に伴う困難をどうやって克服したのかはあまり覚えていないのですが、格段に世界は広がった気がします。また、実証の世界では「研究成果を世界に発信する」ことは目標ではなくなかば義務であり、単著の書籍や翻訳よりも査読付きの論文を尊重する文化がありますが、これも元来は怠け者の自分にとってはよい刺激であると感じています。

数量データの分析という共通言語を介して社会学以外の分野の人と交流しやすくなったのも大きな収穫でした。経済学や政治学系の学会や研究会に呼ばれる機会も増えてきて、今では「別の世界」との接触をむしろ楽しんでいます。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

実は、研究は仕事とよく似ています。研究は受け身の勉強ではなく、それを前提としつつ、さらに自分で問いを見つけて、自分で―しかも説得力をもって―それに答えていくことです。仕事も同じで、与えられた作業をこなすことができることは前提としつつ、さらに自分の頭で考えて、工夫して、その積み重ねを通じて周囲に貢献していくことです。

あまり似てないこともありますよ。研究する上では、自分の答えに説得力を持たせる(証拠を示す)ことが大事です。というより、それこそが研究が研究であることの生命線です。事実を追求することを通じて世の中に貢献するのが学問。この態度を大学院時代にぜひ身につけてください。

これに対して、仕事にはいろんな社会への貢献のチャンネルがあります。自分の仕事を通じて会社の仲間、取引相手、お客さんをどのように幸せにできるのかを各自で考えましょう。そして、どうせ仕事をするならば、たくさん稼いで、たくさん税金を納めて、その使い道を決める場である政治にも関心を払いつつ、不利な立場にある人を救ってあげてください。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。

研究する上で、分野やテーマの選択に並んで重要になるのが研究方法の選択です。そして研究方法をきちんと身につけるには、かなりの時間を要することがあります。社会調査はそのよい例でしょう。若い研究者には、自分に馴染のない研究方法にも積極的に関わってみてほしいですね。