先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。
経済学部のゼミで、レギュラシオン学派という比較的有名な制度アプローチを学んだことと、同じ頃に、東南アジア諸国で実際に貧困・格差を目にした私的体験、つまり、「制度」と「途上国」との学部時代の出会いが、私の研究の原点であり、基本主題です。これは、以後、今日まで変えてもいません。
「社会慣習や行動規範、あるいは政策が変われば、今、自分の目に映っている人々も、もっと豊かに、幸せになれないだろうか?」とふと思ったことが、きっかけでした。
先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。
大学院では、制度と人間を巡る方法論・理論を専門とし、学際的で難解な話をしていました。それもあって、自分の話が周囲から全く理解してもらえない時期も長く続きました。
結果的には、博士論文で示した自説の具体的な展開例として、タイの家計行動に注目し始めた頃から、それまでの抽象的な話と現実分析とが上手く連動しはじめ、同時に、他者から理解される機会も増えています。まだ、完全に克服したとは思っていませんが。
2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。
残念ながら、私自身は、大学の世界しか知りません。ただ、修士論文の執筆過程では、正確かつ論理的で長い文章を書くこと、説明のために必要かつ適切な情報・根拠を示すこと、そして、対象を多角的・多面的に理解することの重要性、などを体得できます。
したがって、将来、どんな分野で仕事に就くとしても、学部卒業生と比べて相対的に高い一般技能(=事務処理や判断能力など)を持って活躍できる、とは言えると思います。
将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。
もし1つだけ挙げるなら、タフな精神力・根性を持つことでしょうか。研究者は、意外と体育会系のノリが必要です。
例えば、投稿論文がリジェクトされて意気消沈する時、指導教員に研究の修正を促されて自信喪失する時、就職が決まらず将来が見えない時など、今後、研究者になろうという「志」それ自体を試される機会が、誰でも少なくとも1度はあると思います。そんな状況でも、ブレルことなく真摯に努力し続ける強さ・集中力を養うべく、まずは、研究の作業を「習慣」にしておくことを勧めておきたいと思います。