深谷 弘和さん の VOICE

VOICE

取材時期:2017年

深谷 弘和さん 修了生

立命館大学大学院社会学研究科 応用社会学専攻
博士課程後期課程 2016年9月修了
現職
天理教教会本部 青年
天理大学人間学部人間関係学科社会福祉専攻

研究者と同時に宗教家として、その可能性を発信していきたい

社会学研究科では、どのようなテーマを研究されましたか。

社会学研究科では「障害者福祉現場における福祉労働者の『個別化』に関する研究」というテーマで研究をすすめました。近年、社会福祉現場では人材不足や低い労働条件が大きな課題となっていますが、経済的な動向と、それに伴う政策の変遷が福祉労働者にどのような影響を与えているのかを実証的に明らかにしました。1990年代以降、少子高齢化と社会保障費の拡大により社会福祉の領域にも市場原理が導入されるようになりましたが、そのことによって、福祉労働者たちがチームとして支援実践にあたることが難しい状況になっているのではないかという点を「福祉労働者の『個別化』」という独自の視点から分析し、その課題と対策について検討をおこないました。さらにそれを通じて社会福祉労働論への理論的積み上げをおこないました。

研究を進めていく上でご苦労されたことはありましたか。また、それをどのように乗り越えていかれましたか。

研究を進めていくことで、苦労したことは、研究の道すじをつくっていくことです。研究をすすめていくと、自身の視野や関心が拡がり、理解し、許容できる知識も増えていきます。しかし、その一方で、それらを1つの研究に集約していくことが難しくなっていきます。「研究は重箱の隅をつつくようなものだ」と表現されたりしますが、全てを知り、全てを明らかにし、全てを記述することはできません。そのことを自覚し、「知っていること」ではなく「明らかになったこと」を真摯な態度で、謙虚にまとめていくことが求められます。私も十分には、できませんでしたが、先行する研究からしっかりと学び、自分と異なる意見を柔軟に受け止めることを心掛けることが大切だと思います。様々な学会や研究会で報告の機会を持ち、意見交流をするのはもちろんのことですが、身近な友人や家族にも自らの研究内容を伝えることができるような、社会に還元できる研究活動を意識していくことが大切だと思います。

院生時代の研究が、今のお仕事にどのように活かされていますか。

現在は、天理教教会本部に勤務しています。社会福祉の登場は、宗教の社会貢献活動と深いつながりがありますが、展開されている実態に比べ、特に日本では、その役割はあまり地域社会で認知されていません。天理教でも「陽気ぐらし」「世界だすけ」の教義の元で、里親や民生委員など地域の社会福祉の担い手となっている教会が多くあります。また、海外では、スピリチュアルソーシャルワークが新たに注目を集めるなど、宗教と社会福祉には大きな可能性があると考えています。院生時代の研究を通じて得たものから、研究者と同時に宗教家として、その可能性を発信していきたいと考えています。

いま社会学研究科で学び研究する院生たちに、なにかアドバイスがありましたらお願いします。

日本の代表的な社会学者の一人である上野千鶴子先生は「オリジナリティは真空地帯に存在しない」という言葉を使っています。研究において「オリジナリティ」は大切ですが、それはこれまでの研究の積み上げの上にしか成り立ちません。社会学研究科には、他の大学や研究科とは比べられないほど、領域を横断して研究者・院生が集まっています。私は社会福祉が専門でしたが、教育、メディア、スポーツなど自らの研究領域を越えて、古典と呼ばれる文献を読み、視野を広げさせてもらいました。特に、研究科に入った当初は指導教員の元で「多読・乱読」を心がけ、とにかく多くの文献を読みあさった記憶があります。今となっては、それが研究の“基礎体力"のようなものになっていると感じています。ぜひ皆さんも社会学研究科の特色を生かして、領域を横断して、「多読・乱読」を心がけることをお勧めします。