権 学俊教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2016年

権 学俊教授 教員

研究テーマ
近現代日本社会における天皇制とスポーツ
近現代日本社会におけるスポーツ・ナショナリズム
教員詳細

「問題を克服するための鍛錬」を大切にしてほしい

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

私は高度成長期における国民意識の日韓比較を修士論文とし、博士課程では戦後日本のスポーツイベントとナショナリズムとの関係をテーマに国民体育大会の研究を進めました。博士号取得後は、現代日本社会研究の一環として、戦後日本、とりわけ(ポスト)高度成長期における国民化と国民統合の検討を行ってきました。個人化が進行したかにみえる社会の下、それとは逆のベクトルをなすナショナルな感情や社会統合が、なぜ・どのような社会的力学によって出現したのか、が主たる研究課題です。この課題を検討する上で、スポーツイベントの分析は有益かつ不可欠なテーマであり、最近は主に、スポーツイベントのような大衆的象徴儀礼が果たす社会・国民統合の極めて特徴的な機能を、「天皇制」との関わりを通して歴史的に解明する研究を進めています。近代日本における「絶対天皇制」の支配構造は、15年戦争を経験しながら強化され、敗戦後も「象徴天皇制」として生き残りました。昭和天皇の没後、「天皇制」を歴史化する作業は急速に進んでおり、昭和天皇と戦後史に関する研究、考察する議論は少なくないのですが、天皇制とスポーツの関わりを通じて近現代日本社会の特質を究明した研究蓄積は極めて浅いのが現状です。近現代日本社会の中で影響力の強い天皇制とスポーツとの分析を通じたナショナリズムの検討は、単にナショナリズム理論研究に留まらない包括的な社会分析として、日本の社会的特質を明らかにする上で大きな意義を持つと考えています。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

もちろんあります。学生時代から研究を重ねてきた中で、時に大きな困難、危機、高い壁に数多くぶつかりました。研究が行き詰まった際は挫折感も味わいました。そしてそういう時は、大学院時代から決まって学校のグラウンドをひたすら走りました。走りながら、研究の原点へ立ち返り、論文の主旨を考え直します。体を動かしつつ自分が抱えている問題を頭で考え続けるのです。さらに、論文内容をまとめるノートがあるのですが、このノートは常に身に付け、通勤電車の中、ご飯を食べている時、お風呂の時や布団に入って寝るまでの時間、研究や論文の事を思いついたら何時でもメモできるようにしています。研究が思うようにいかない時でも、焦らず地道に進める事が重要ですし、物事を多少楽観的に考え、ポジティブに論文を捉え直せば、壁を乗り越える知恵や工夫が必ず出てくる事でしょう。私は何度もそうやって苦境を乗り越えてきました。大学院での学びは、良くも悪くも院生に委ねられる部分が大きく、そこで自分を見失わないようにすることが最も重要ではないでしょうか。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

企業で必要な人材とは、深い専門知識と同時に幅広い分野の見識を持ち、優れたコミュニケーション能力や新たな分野にチャレンジする意欲を持った人物であると考えます。また、新しい仕事に取り組む上では様々な切り口から複眼的な見方が出来るフレキシブル性は欠かせません。これまでの大学院生活では、文献や理論の調査など内向きになりがちだったのですが、今後の社会人生活の中で大きく変わる点は、社会のニーズを常に考えることや「お客様」がいることです。常に社会の動向を意識し、自らがお客様の想いを感じ取り、お客様に言われる一歩先に行動を起こす事が求められます。二年間の修士課程を通して修得した、現代社会の変動を分析する能力をはじめ、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、語学力等は、実社会で皆さんが広く社会貢献できる重要な経験になると考えます。そして、卒業後いかなる進路を選ぼうとも、大学院生時代に経験した「問題を克服するための鍛錬」はとても役に立つと思います。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。

やはり外国語の習得は大事ですが、最も重要なのは、自分が本当にやりたい事が何なのか、自分が将来何をしたいかを明確に考え、自分の中にある問題意識を明確にするとともに、5年間の研究計画を着実に立て、研究をいかに社会に還元していくかという、首尾一貫したビジョンを早い段階から構築するのが良いでしょう。特に大学院時代は自由度が高い分、個人の判断力と行動力が問われます。5年間をどのように過ごし、卒業後どんな進路を取りたいかを自分なりに早い段階から計画を立て、実行してみるということは、研究職を目指す院生にとって非常に重要だと思います。また、社会学研究科に入ってからカリキュラムを通じて学べるものとは何か、それをベースにして自分の未来をどう構築していくのかを常に検討しながら研究を進めていく必要があります。多くの知識から、いかに自分の成長の栄養になる物を採れるかは、自分の研究に非常に重要な問題ではないかと思います。

また、自分のゼミ以外の他のゼミに参加することをはじめ、様々な報告・研究会に積極的に参加し、他の人の研究にも大いに関心を持ち議論してみて下さい。そこからヒントを得て、自分の研究内で真似してみる事は大いに結構なことです。他の人が悩んだ部分や、どうやってそれを克服したか、自分の研究に当てはめると、同様に問題が解決される事もあります。