根津 朝彦 教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2017年

根津 朝彦 教授 教員

研究テーマ
戦後日本のジャーナリズム史、ジャーナリストの思想史、「論壇」と知識人の文化史
教員詳細

アカデミックな成果に触れ続ける社会人、何らかの形で自分の思考や文章を発信できる人になってほしい

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

「戦後京都学派」の主導者であった桑原武夫(1904~1988年)との出会いが導きとなりました。桑原が言論の舞台としていたのが『世界』『中央公論』『文藝春秋』の総合雑誌だったこともあり、徐々に「論壇」に興味を抱くようになりました。同時に日本の戦争責任に関心があったため、その結節点となった1961年の「風流夢譚」事件を研究することになりました。この中央公論社を直撃し、「論壇」の変容に大きな影響を与えた「風流夢譚」事件の研究を通じて、ジャーナリズム史・ジャーナリストの思想史というテーマを明確に意識するようになったわけです。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

あまりありませんが、自分の専門が何であるのかは大分悩みました。その結果、4つの大学・大学院を経ることになりました。私の恩師が言っていた言葉ですが、「自分にはこれしかない(これしかできない)」という方向性を試行錯誤する(突きつめる)ことが、克服に向うことになったのだと思います。しかし、上述のように修士論文のテーマ(「風流夢譚」事件)が決まってからは、小さな困難は頻繁にあるにせよ、大きな困難を自覚的に感じたことはありません。また研究そのものではなく、就職についてはいつも不安を感じていましたし、悩んでいました。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

どこの世界に進んでも、修士課程で鍛えた分析力と論理的思考は生かされるはずです。どのような思考・分析を経るとオリジナリティが生まれるかという視点をもつ人は、価値を生み出せる強みがあります。またアカデミックな成果(学術書や教養書)に触れ続ける社会人であってほしいですし、何らかの形で自分の思考や文章を発信できる人になってほしいと願っています。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。

勉強と、研究成果をあげる道筋を区別することです。もちろん大学院生時代には幅広い専門知識や先行研究を学ぶことは不可欠ですが、ともすると研究成果をまとめる集中的な作業よりも、学術書・論文や教養書の乱読という勉強に陥りがちです。

そういう意味でも、日本学術振興会特別研究員や競争的資金の申請を早い段階から応募しておくと、研究計画を練る上でも、アカデミックキャリアを形成するためにも有益です。

自分の専門分野に近い博士論文を書籍化した研究書を何冊も読み、早い段階から方法論を学びつつ、博士論文を本にする具体的なイメージを会得していくことも大切です。

また卒業論文と修士論文のテーマががらりと変わることはあるでしょうが、学部生時代の問題意識もいつか必ず何かしらの研究テーマにつながる可能性があると思えば、無駄な寄り道はありません。

「このご時勢なので、研究職を目指すことをすすめない」という研究者は多いでしょう。私も相談を受ければ、そのように伝えます。例え何人の研究者にそう言われても「それでもやる」と思えるだけの情熱と、長年かけて研究したいテーマがあるかどうか、その覚悟も重要になります。