柏木 智子 教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2017年

柏木 智子 教授 教員

研究テーマ
子どもの貧困とケアする学校・地域
学校と地域の連携とコミュニティづくり
教員詳細

ともに生きて、同じ人権をもつ仲間として、他者にどれだけ共感できるのか、どれだけ寛容になれるのか、そして他者の人権を大切にするために実際にどう行動できるのかを考えることが大切です

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

学校って一体何だろう? と子どもの頃から考えていました。中学生になり、学習活動をいやがる友達が増えるにつれて、ますます学校の役割って何だろう、この閉塞的な状況をどうしたらいいのだろうと思ったのが原点です。私が中学生の頃は、まだ学校が閉ざされていた時代で、今ほど地域連携はなされていませんでした。学校が民主主義社会を構築するための制度であるなら、もっと開かれて多様な人と協働しながら教育活動を行うべきだと思ったのが、学校と地域の連携を研究し始めたきっかけです。

その後調査を続けていくと、地域の中に、この子にこそ支援やケアが必要なのではないかと思う子どもがいて、そこから子どもの貧困研究へと関心が移りました。今は、困難を抱える子どもに対して、学校ができること、地域ができること、行政ができることは何なのか、どう実践していけばいいのかを研究しています。そして、みんなでどうネットワークを組んで、さまざまな場で多様なケアリング・コミュニティを作っていくのか、公正な社会を創っていくのかを考えています。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

困難にぶつかっていないときがあったのだろうかと思います。今でも、ずっと壁にぶつかっている気がします。克服したとは思えないので、その方法はわかりませんが、ゆっくりと、休みながら、時には後戻りし、時には横道にそれながら、それでも歩くのを忘れないことでしょうか。

ただ、これまで本当に多くの方に助けていただきました。いろいろな方に導いてもらい、後ろから押してもらい、かついでもらって何とかここまで来られました。私一人で研究していたならば、ここにいないと断言できます。たくさんの方々がさまざまな支援をしてくださるからこそ、よろよろしながらも前に進めているのだと思います。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

修士にどのような経歴や動機で入ったのかによると思います。一度社会に出てから大学院に入ったのか、それとも学部からストレートで入ったのか、就職もイヤだし少し猶予期間だと思って入ったのか、それともどうしてもやりたいことがあったのか。経歴や動機によって、大学院時代の成果がそのまま実社会でいかせる場合もあるでしょうし、そうではない場合もあるとは思います。

ただ、成果よりも、成果を導き出すまでの問題関心やプロセスがとても大切です。10年経って、「あら、同じ問題関心に戻ってきた」とか「そういえば、成果を出すまでのあの道のりって大切だったな」とか、一回り二回り成長して改めて見直すと、今の自分を形作っているなあと思うところはあります。成果を出してもそれに満足せず、問題関心やプロセスを大事にして、より成長していくと、実社会でいかせるところも増えてくるのではないでしょうか。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。

社会科学の研究では、さまざまな事象に関心をもち、たくさんの人と出会って、いろいろな経験を積むことだと思います。失敗をしながら経験を積み重ねる中で、社会の仕組みが肌で感じられるようになります。「これはすばらしいなあ」あるいは「これはどこかおかしいぞ」と捉えられる嗅覚を鋭くし、人の痛みや自分の痛みを感じられるようになってほしいと思います。そして、ともに生きて、同じ人権をもつ仲間として、他者にどれだけ共感できるのか、どれだけ寛容になれるのか、そして他者の人権を大切にするために実際にどう行動できるのかを考えることが大切です。そのためには、とにかく他者とふれあい、さまざまな取り組みに顔を出してみることです。ついでに、おせっかいをしてみることです。自分の領分を区切って、私のすべきところはここまでと決めてしまうのではなく、少し先まで手を伸ばしてみるのもいいですよ。