FD活動
2025年度 第2回
- 日時 2025年12月23日(火)16:00~17:20
- 場所 204教室
- 出席者 14名
| テーマ | 法科大学院における判例教育の意義と実践② |
|---|---|
| 報告者 |
①趣旨説明 中山 布紗 教授・FD委員長 ②報告 行政法分野 湊 二郎 教授 民事訴訟法分野 和田 吉弘 教授 商法分野 島田 志帆 教授 刑事訴訟法分野 渕野 貴生 教授 |
2025年度の第2回FDフォーラムでは、第1回FDフォーラムに引き続き「法科大学院における判例教育の意義と実践」をテーマとして取り上げ、行政法、民事訴訟法、商法、刑事訴訟法の各教員から報告をしていただいた。
第1回FDフォーラムでは、憲法、民法、刑法の各教員から、授業で判例を取り扱う上での工夫、司法試験の出題形式と判例学習との接続を意識した指導方法等について報告をしていただいた。その後の議論においては、とりわけ判例を批判的に検討することの意義に関連して、新たな問題が生じた場合において従来の判例との整合的な形で解決するのか、判例を変更する形で別のルールを形成するのかについて学生が自分で考えることができる力を身に着けさせることが法科大学院教育の目標ではないか等といった意見が出された他、下級審から判決文を読ませることの重要性などについて一定の共通認識が確認された。また、判例は基本的なルールであり知っていなければ法曹としての土俵にも上がれないため、判決文を読むという地道な作業を行うことの重要性を学生に伝えていくことを意識することが教員側にも必要である等の意見も出された。議論を通じて、判例教育についての共通認識・共通課題を抽出することができたように思われるが、判例学習の意義については科目特性もあることから、第2回フォーラムでは、行政法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法の四分野担当者からそれぞれ発表をいただき、引き続き法科大学院における判例教育の意義について検討する機会を設け、議論を深めることを目的とする旨、中山委員長から趣旨説明があった。
まず、行政法について、湊教授から、前提として、行政法は受験生の視点からすると、法律基本科目の中で一番後回しになる科目であるため、判例を十分に理解しないまま受験に臨む者もいる結果、判例を知っているかどうかという点で既に差がついてしまうという傾向について話があった。次いで、答案での判例の示し方については、論述する際、その判例が判断基準、判断枠組みなどの一般論を示している場合には、改変しないで書くことが期待され、そのため、一般論については全部(そのまま)覚えて書くということになり、他方で、一般論を示していない著名な判例については、その判例の具体的な判断を整理して書くしかないということであった。司法試験においては、問題文で特に指示されていない限り、判例とは異なる立場で書く必要はなく、そのような出題もほとんどない(と思われる)ため、「判例通りに書く」ということになるところ、①行政救済法と②行政法総論それぞれの分野に応じた対策としては、①のほうが書きやすくマスターしやすいのに対し、②は若干捉えどころのない感じがあることから、判例学習においても、①に関する判例から覚えてマスターすることが得策であるということが示された。
次いで、民事訴訟法について、和田吉弘教授から、前提として、①民事訴訟法Ⅰ、Ⅱと②民事訴訟法演習Ⅰにおける判例の扱いについて、①は講義科目で、授業では判例百選さえ使用していないが、民事訴訟法においては重要な事項でも条文のないものがあるなどから判例の意義は大きく、したがって判例の概要は「基礎からわかる民事訴訟法」で説明している、②は全15回を7つのテーマに分け、テーマごとに判例上の用語を含めた基本的な用語を取り上げた「関連する民事訴訟法上の諸概念」や百選からの重要な判例を3つ程度取り上げた「検討判例」を掲げた総合的なレジュメを予め配布し、前者は授業中の質疑によって基本的知識を確認した後、30分程度の起案をさせる、後者は授業中「事実の概要」と「判旨」を確認した後、審級関係についてとくに確認をしていることが示された。司法試験の民事訴訟法の出題について、以前は判例に対する立論や判例の適用範囲を狭める立論を求める出題が多かったが、最近はむしろ判例法理を肯定するような観点からの出題が多いことが示された。また、判例をどう教育するかについては、法科大学院で授業の予習として1審判決から読ませることもあっていいとは思うが多用はできない、民事訴訟法の場合は、判例の一般論を理解させるだけで手一杯であり、百選の「事実の概要」と「判旨」を精読するように指示するのにとどまる、百選の「事実の概要」と「判旨」を正確に読むだけでも、民事訴訟法や民事執行法の基礎知識のほか、かなりの論理力や日本語力も必要になってくる、実際上問題となるのが、「事実の概要」の不正確さや読みにくさと、学生の予習の不十分さであることが示された。
商法については、島田教授から、前提として、司法試験において憲法や刑法が学説を意識しなければならないのとは異なり、商法では学説的な知識を司法試験で書くことが必ずしも求められていないため、百選やジュリスト重判ひいては下級審判例を用いた判例学習の意義があることが示された。そのうえで、司法試験の過去問を例に挙げつつ、それらの出題趣旨から司法試験と判例の関係性について以下の分析が示された。まず、短答式試験科目から商法が外されて以降、しばらくは論述問題でも短答知識を問う出題がされていたのに対し、この5年で出題の元となっている判例がわかるような問題が多く出題されている傾向が強化されたという印象が語られ、一例として判例の射程を検討させる問題が出されており、適切であるとの見解も示された。こうしたことから、判例を知っているかどうかで司法試験に合格するか否かが決まるといえ、したがって、判例を重視した授業が行われているとのことであった。具体的には、商法演習Ⅰ、Ⅱにおいて、判例解説の後に過去の司法試験問題がアレンジされ、かつ、レベルが司法試験に相当するライティングが掲載されている「ケースブック会社法」に沿って解説がされ、受講者が起案する機会も複数回確保されており、また、コーポレート・ロー展開演習でも、重要判例解説が配布されている。以上のように、判例学習は司法試験合格のために重要かつ不可欠であるため、学生には判例を読んで欲しいと思うものの、授業において第一審から読ませるのは到底無理であり、ジレンマを感じているということであった。
最後に、刑事訴訟法について、渕野教授から、根拠に関する規範(判例法理の理由付け)、基準に関する規範(あてはめの際に使用する規範)の区別を意識して教えており、とりわけ後者のみを覚えるだけでは不十分であるという前提が示された。答案での判例の示し方については、基準が評価的・規範的な判例については、判断枠組が抽象的であるため、考慮すべき要素を判例の実例を挙げながら整理しつつ具体的な考慮要素として答案に書くことを指導している一方で、規範が長い判例については全部覚えて書くように指導しているということであった。さらに、論理的に誤っている(論理として成立していない)判例については答案にもそのまま書くように指導したり、判例の判断枠組を調査官解説が誤導しているものについては、判例規範に拠るべきである旨指導するなど、判例の性質に応じて解説を工夫するなどの対応をしていることも示された。
各分野からの報告後の質疑・議論では、判例教育の意義・方針、判例の答案への示し方に関する方針について、出席者から様々な意見が出され、分野特性が再認識される一方で、分野が異なっても、判例教育の意義・方針や授業における判例の取り扱い等の共通性も確認された。また、調査官解説の取り扱いについて、情報について一定の信頼がある、特定の判例においては判旨に現れない根拠が明確に示されている場合がある等の理由から授業用の教材として付けることがあるとする分野がある一方で、司法試験では判例を批判的に論じる必要があることから、判例法理を擁護する調査官解説は鵜呑みにしないほうが良いと指導する分野もあることが明らかになった。さらに、近年、司法試験の問題が易化しており、したがって、判例を覚えて吐き出すだけで合格できるのではないかという懸念も示され、ただ、これに対しては、問題が易化しているからこそ、論点そのものを見誤ることがない分、判例を含めた判断枠組を厳密・明快に論じる必要が生じ、日ごろから起案の練習をしておかなければ合格ラインに届かないという意味での難しさがあるのではないか、また、科目特性上、論述にあたっては、個別法をきちんと解釈した上で、どの判例と関連するのかを検討しなければならないため、判例を記憶しているだけでは合格できない等の意見も出された。