FD活動
2025年度 第1回
- 日時 2025年7月8日(火)14:30~15:40
- 場所 204教室
- 出席者 18名
| テーマ | 法科大学院における判例教育の意義と実践① |
|---|---|
| 報告者 |
①趣旨説明 中山 布紗 教授・FD委員長 ②報告 憲法分野 坂田 隆介 准教授 民法分野 中山 布紗 教授 刑法分野 大下 英希 教授 |
2025年度の第1回FDフォーラムでは、「法科大学院における判例教育の意義と実践」をテーマとして取り上げ、憲法、民法、刑法分野の各教員から報告をしていただいた。
法科大学院の授業は、法的知識の確実な修得とその運用能力の養成を図ることにあり、その格好の素材が判例である。以前は、判例の判断枠組を理解し記憶しなければ司法試験に合格できないという認識が院生の中でも確実に共有されており、授業において判例を詳細に取り扱うことや、予習段階で判例を読むことに対してそれほど不満は出なかったように思われる。しかしながら、近年、判例の解説に授業時間を割くよりは、答案の書き方に重点的を置いて欲しいという院生からの意見が少なくない。冒頭、以上の現状認識を前提として、在学中受験がスタートし、司法試験制度が大きく転換していく中、判例教育にどのような意義があるか、また、授業における判例の教授法について再検討する機会としたい旨、中山委員長から趣旨説明があった。
なお、第2回FDフォーラムも同テーマ「法科大学院における判例教育の意義と実践②」で開催し、行政法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法の各分野から報告をしていただき、意見交換を行う予定である。
まず、憲法について、坂田准教授から、憲法の論述試験においては、判例に対して学説を用いて批判的な検討をしつつ論じること、合憲性審査の判断枠組の設定とあてはめについて、「①主張(学説を用いたオーソドックスな違憲論)←②反論(判例や学説を用いた合憲論)←③再反論(②の論拠を批判したうえでの違憲論)」の論述を過不足なく分配する答案構成が必要であり、判例学習が主として②と③の部分の論述に不可欠であることが説明された。とりわけ、憲法演習における判例学習について、学生からは判例ばかり読まされて面白くない、憲法は抽象的で書き方がわからないという意見が出されるが、多くの合憲判例で見られるあてはめの切れ味の悪さや検討の不十分さを検討することで、事案を分析し検討する視点や態度を養い、結果的に答案作成能力の向上にもつながること示された。また、在学中受験という労働強化により、学生の中で法科大学院の勉強と司法試験の勉強を区別するという意識が先鋭化され、判例学習を司法試験の勉強に接続できない学生が増えていることが指摘された。以上をふまえて、憲法における判例学習は、あてはめの部分について、問答をしながら、権力的な行為に対して様々な角度から批判的に見ていく力をつけるために必要であることを学生に理解してもらう必要があることが示された。他方で、法科大学院の勉強と司法試験の勉強の接続サービスも教員側である程度はやらなければいけないのではないかという問題提起がされた。
次いで、民法について、中山委員長から、司法試験の問題は、少し前まで膨大な事実量ではあったが、憲法や刑法のように、学説を用いて判例を批判的に検討する必要はなく、何が問題となっているかを把握した上で、適用条文、適用すべき判例の判断枠組がわかれば何とか答案を書くことはでき、近年は在学中受験の影響からか事実の量も少なくなり、論点が非常にわかりやすい問題となっているものの、条文数が多いために論点も必然的に多く、百選も3冊あり単純に最低判例を300件覚えなければいけないというということも相まって、受験までに知識のインプットが間に合わないとぼやく学生が多いという実感がまず語られた。次いで、在学中受験が始まり、司法試験受験までの期間が短くなったことで、学生の不安や焦りが増長しており、授業において判例を丁寧にやるよりは論点をたくさん取り上げて欲しい、答案構成やあてはめの仕方に解説の時間を割いてほしいといった要望が出されるようになっているのではないかという分析が示された。授業における判例学習の意義としては、判旨から原則と例外を理解させることも重要であるが、原告が被告に対し何を請求しているのか、それに対して被告がどのような反論をしているのか、すなわち、事実関係を把握して論点を見つける練習をさせることが最も重要であるという認識が示された。ただ、このような事実関係を把握するというトレーニングに重きを置いた判例学習が司法試験対策につながることは、学んだ事柄を答案にどのように反映させることができるかということも含めて、学生に対して意識的に伝えていかなければ、法科大学院での勉強と司法試験対策とが別物であるという学生の認識を払しょくできないのではないかという懸念が示された。
最後に、刑法について、大下教授から、平成29年以降の司法試験では、問題形式が①判例と学説が解釈上一致しているケースにおいて、問題文中の事実と条文との関係を見てどのような解釈問題となるか問題提起しつつ論述させる形式、②判例に対して有力学説が真っ向から対立するケースにおいて、判例と有力学説それぞれの立場を示しつつ両者なぜ対立しているのかを説明させる形式、③ある争点に対して複数の主要な判例がありすべて理論構成が違うケースにおいてそれぞれの理論構成を説明させる、あるいは、最高裁判決がなく下級審で判断が分かれているケースにおいて違法性と責任どの論点で検討することになるのか論じさせるような形式と三つに分かれているところ、いずれも判例の事案が前提となっており、かつ、問題は判例の事案を少しだけスライドさせているため、判例学習の必要性がかなり高まっていることが示された。したがって、刑法演習においては、判例がなぜこの文言を使ったのかを説明する必要があり、具体的には、判旨を理解することはもちろん、判例の文言と事実とがどう対応しているのか、判例を丁寧に翻訳し、その中でどういうあてはめをしていくところがポイントになるかという指導をされているということであった。答案接続を意識しながら理論と判例と司法試験をつなげることが重要であり、判例学習は少なくとも司法試験を受けるためには絶対に必要であるとの認識が示された。
以上の報告を受けた質疑・議論では、とりわけ判例を批判的に検討することの意義について、新たな問題が生じた場合において従来の判例との整合的な形で解決するのか、判例を変更する形で別のルールを形成するのかについて学生が自分で考えることができる力を身に着けさせることが法科大学院教育の目標ではないかという意見が出された他、下級審から判決文を読ませることの重要性などについて一定の共通認識が確認された。また、定期試験の解説において学生が法律論にあたる部分の正誤しか確認しない傾向にあることを危惧し、講評の前提として事実関係から載せているという工夫をされていることが紹介されたり、判例は基本的なルールであり知っていなければ法曹としての土俵にも上がれないため、判決文を読むという地道な作業を行うことの重要性を学生に伝えていくことを意識することが教員側にも必要である等、様々な意見が出された。第1回フォーラムでは、授業における判例学習の意義と司法試験の出題形式(答案作成)と判例学習との接続について自ずと議論の焦点が定まり共通認識・共通課題が確認できたように思われるが、他方で、判例学習の意義については科目特性があることも否めない。したがって、第2回フォーラムでも、第1回フォーラム同様、科目における判例学習の意義を各分野から報告していただき、議論を深めたい。