Feature #02

密着レポート
調査のスペシャリスト集団
「レファレンス・ライブラリアン」
を辿る!

STORY #02

1931年7月17日、和歌山県の
日曜学校にいた「小笠原」とは?

大城 伊織

BKCメディアセンター レファレンス・ライブラリアン

大城 伊織

調査スキルを駆使して
わずかな手がかりから
資料を探し出す

さまざまな検索ツールと高度な調査スキルを使って少ない手がかりから研究者が見つけられない資料を探し出し、陰ながら研究を後押しする。そんな図書館の「調査のスペシャリスト」がライブラリアンである。びわこ・くさつキャンパス(BKC)のメディアセンターの大城伊織もそんなライブラリアンの一人だ。日々、多岐にわたる分野の教員からの難度の高い調査依頼に応えている。

そんなある日、大城のもとを一冊の資料を携えた教員が訪ねてきた。『東亞遊記』という1933年に発行された古い資料を開くと、あるページに「1931年7月17日に斉魯大学の教員と学生が和歌山を訪問し、拝日学校で交流した」という旨が書かれてある。大城が教員に話を聞くと、「拝日学校とは日本語でいうキリスト教の日曜学校のことです。この学校が『小笠原』という人物によって開設されたらしいということまではわかったのですが、その『小笠原』氏がどのような人物なのか、まるでわからないのです」と言う。そこでこの「小笠原」氏について書かれた資料を探してもらえないか、というのが教員の依頼だった。

大城は、わずか1行ほどの情報を手がかりに「小笠原」が何者なのか、調査を開始した。

どのデータベースを選び、
どのようなキーワードで
検索するかがポイント

手始めに大城は、「小笠原」という人物がキリスト教関係者である可能性をふまえ、1930年代の『基督教年鑑』などに「小笠原」という人物の記載がないかを調べたが、めぼしい情報はなかった。やはり「小笠原」という苗字だけでは絞り込めない。そう思った大城は、次の手を考えた。目をつけたのは、1931年7月17日という「日付」と、和歌山県という「場所」。「加えて、依頼者から斉魯大学が中国のミッション系大学であると聞いていました。戦前に外国人が和歌山県を訪れるのは珍しいことだったでしょうから、新聞の地方面に記事が掲載されたのではないかと考えました」と大城は推理を明かす。

まず調べるべきは、新聞記事だと決めて、さっそく新聞記事のデータベースに向かった。立命館大学は、過去の新聞記事を検索できるデータベースと契約している。朝日新聞の記事を収録している “聞蔵Ⅱビジュアル”にて、日付と地方を絞って検索すると、大城の予想は的中。1931(昭和6)年7月18日付の大阪朝日新聞和歌山版に「和歌山城の豪華に驚く 日華親善につとむ齊魯大學教授一行」という見出しを見つけたのだった。「記事には、齊魯大学教授たちの7月18日の行程が詳細に記載されており、一行が『小笠原誉至夫』氏邸を訪問し、その後『國際聯盟和歌山支部児童部』の歓迎会に出席したことが書かれていました」と大城。ここで「小笠原」氏の本名と、彼に関係ある組織が判明したわけだ。

新聞記事に限らず、データベースやインターネットで検索する場合、キーワードの選択が目的の資料を探せるか否かの分かれ目になる。「依頼者から提供されたキーワードだけではヒットしないこともしばしばです。そんな時は、日本語を英語に変えたり、同義語や類義語を調べたり、または上位の概念の言葉に、あるいはより絞り込んだ具体的な言葉に変えたりと、さまざまなキーワードで検索します」と大城は明かす。ライブラリアンの語彙力や発想力が試されるところだ。検索の結果、新たに有望なキーワードが出てきたら、それを糸口に情報をさらに深掘りしていく。

「小笠原誉至夫」というフルネームが分かれば、調査の可能性は格段に広がる。まず大城が調べたのが、“Googleブックス” という書籍の全文検索サービスだった。「通常の書籍検索サービスでは、書籍のタイトルに検索ワードが含まれていないとヒットしません。一方“Googleブックス”は、タイトルだけでなく本文内も検索できるので、固有名詞などを調べる際に有効です」。その結果、大城はついに小笠原誉至夫氏の経歴や業績が分かる文献をいくつか見つけ出すことに成功した。

さらに大城は、新聞記事に掲載されていた「國際聯盟和歌山支部児童部」という組織にも着目。「小笠原誉至夫 國際聯盟和歌山支部児童部」といったキーワードで他のデータベースをいくつか調べた。戦前の資料などが幅広く収録されている「国立国会図書館デジタルコレクション」というアーカイブもその中の一つだ。大城はそこで国際連盟協会が発行した昭和6年度の報告書『国際聯盟協会会務報告』を探し出し、大阪朝日新聞の記事と符合する報告内容を発見した。

最後に調査過程で見つけた関連情報として博物館の資料展の情報も添付し、大城は調査を終えた。

調べる対象に興味を持って
前向きに調べれば、
自ずと道が見えてくる

ライブラリアンのもとに持ち込まれる依頼は、専門的なものばかりではない。「学生さんの中には自分が何を調べたいのか、はっきりしないままレファレンスカウンターを訪れる人もいます。例えば、授業で『〇〇について調べてきなさい』と課題を出された時、とにかく『〇〇に関する資料はありませんか』の一点張り。〇〇に関する何を調べたいのか、具体的な切り口が見えていないのです」と大城は言う。

そうした問い合わせが漠然としている学生には、まず「レポートか課題ですか」と聞き、レポートを書くための道筋を教えるつもりで資料の探し方を説明する。「書き方」が分かって初めてどのような方向で文献を探し、どういう着眼点でそれを読めばいいのかも見えてくる。「たとえ教員から出された課題であっても、調べる対象について学生さん自身が興味を持ち、前向きに調査や研究に取り組めば、問題意識や掘り下げたいポイントも自ずと明確になっていくはずです」とアドバイスする。「私たちが資料を探すだけなら簡単です。しかしそれではその場限りで終わっています。今後につながる情報を提供することで、図書館の利点を知り、もっと利用してほしい」と大城は思いを明かす。

レポートや課題、論文作成だけでなく、就職活動の後押しになる情報もライブラリーで得ることができる。「今後、〇〇社の面接を受けるので、企業情報を探す方法を教えてください」と学生が訪ねてきたことがある。

大城は立命館大学が契約している企業情報に関するデータベースを検索。企業が事業や業績について年度ごとに開示する有価証券報告書を紹介した。「その他にも過去の業界紙や経済紙といった新聞記事や経済系の雑誌に掲載された記事を調べると、業界全体の動向や目的の企業に関する注目すべきトピックが見つかることも。会社案内やホームページには載っていない情報を取得する方法を紹介することができます」と大城。「後日、無事に目標の企業の内定を得た学生が、お礼を言いに来てくれた時は、嬉しかったですね」と笑った。

ライブラリアンがどれだけ多くの情報を提示しても、学生自身に「知りたい」気持ちがなければ、それらは単なる情報の累積のままだ。大城は言う。「知識が増えること、新しい知を発見することを楽しんでほしい。私たちはそれを全力でサポートします」。

竹田 華子

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竹田 華子

OICライブラリー レファレンス・ライブラリアン

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